「えらく突っかかってくるな。なにか案でもあるのか?」


 苦々しげに翡翠が尋ねると、時雨さんはなぜかこちらを見る。えっと戸惑う私に先に飛びついたのは、翡翠ではなく笹波様だった。


「そうだ。こいつがいる!」

「へっ……⁉」

「おまえ、賀茂家の末裔なんだろ? 専門職じゃねぇか! 早く言えよ!」


 いったいなんの話をしているのか分からず困惑し、どうにかその意味を解釈して飛び上がった。つまり私に陰陽師をやれ──と言いたいのだろうか。


「ちょ、ちょっと待って下さい! 私にはそんな力ないです……っ」


 まさか、さっきの時雨さんの意味深な視線もそういう意味だったのか。

 いくら修行していたとはいえ、私はようやく自分の霊力をコントロール出来るようになったばかりだ。悪霊祓いなんて以ての外、浄化のやり方すら分からない。


「真澄さんなら大丈夫です。毎日修行を見守っていた自分から言わせてもらえば、あなたは間違いなく陰陽師の素質がありますから」

「陰陽師の、素質……」

「ええ。もとより霊力の量や質は申し分ありませんでしたが、この速さで完璧にコントロール出来るようになるなんて普通ならありえないことなのですよ。自分も正直驚いていました。あなたは間違いなく、陰陽師の末裔です」


 優しく微笑んだ時雨さんは、全員の顔を順に見て私の背中を押すようにひとつ頷く。


「……神の神力や妖怪の妖力では、悪霊は祓えないし瘴気を浄化することも出来ません。今この状況で、多くのあやかしたちを救えるのはあなたしかいないのです」

「私、しか……でも、だって、そんな、私なんかが……」


 頼られることに、慣れていないのだ。

 それなのに、よりにもよって何十回、何百回、数え切れないほど要らないと思ってきたこの力を必要だと言われる日が来るなんて。

 自分の手のひらに目を落とすと、指先がわずかに震えていた。

 守るために、この力を受け入れるためにはじめた修行だ。ようやく必要とされて嬉しいはずなのに、どうしても怖い。逃げたい、という気持ちが前に出そうになる。

 ぎゅっと拳を握りしめたその時、ふわりとふたつの小さな手が重なった。