「そもそもあのジジイは、この前うちで乱暴を働いた罪で禁固刑に処せと命じておいたはずだ。なのになぜひょうひょうと釈放されている?」
「あ? 事情聴取の結果、特に怪我をさせたわけでもねぇってことで二日後には釈放されたんだよ。ツメが甘ぇからこうなるんだろ」
「やはりあの時、確実に仕留めておくべきだったか。上手く言い逃れしやがって」
しかしこの二人が話していると、翡翠までガラの悪いヤンキーに見えてくる。うつしよで並んで歩いていたら絶対に目を合わせたくないタイプの人たちだ。
時雨さんも見かねたのか、わざとらしく咳払いすると翡翠に冷たい目を向ける。
「で、御二方は焼き払い方針には反対なのでしょう? 悪態ばかりついていないで、真剣に解決策を考えてください。なんのために今のこの場を設けていると思っているんですか」
「言われなくても考えているが……そう簡単に解決出来るものでもないだろう。統隠局は明後日には火を放つと言っているんだ。俺たちがなにか出来るとすれば今日明日しかない」
「だったら尚更でしょう。早急に解決するのなら、今日明日中に悪霊を祓うしか手はありません。まあそんな状態なら辺り一帯は瘴気の巣となっているでしょうから、それも全て浄化しなければあっという間に土地ごと朽ちて終わりですが」
先日の修業中、瘴気は人やあやかしに限らず触れたもの全てに害をもたらすのだ──と教えてもらったことを思い出す。たしかにこの間のお客さんも、農作物や住民の被害を訴えていたし、実際に被害は拡大しつつあったんだろう。
しかし、そう考えたらなおさら解決は難しい。今日と明日中に悪霊を『祓い』、充満する瘴気を『浄化』しなければならないなんて──。