「……あのジジイ、とんでもないことをしてくれたな」


 急遽よろず屋を閉店し、話を聞くために応接間に移動してから数十分。

 部屋には、鉛のような重苦しい空気が流れていた。それに引き寄せられた陰の気が濃くなっているのか、気持ちがどんどん暗くなる。

 ひと通り状況を説明し終えた笹波様は、疲れたのか大の字になって畳に転がっていた。そうなるのも無理はない。事態は予想していたよりもずっと深刻なものだった。


「──つまり、この間のお客さんが荒ぶって瘴気の封印を解いちゃった……ってことですよね?」


 今にも泣きそうになっているりっちゃんの頭を撫でながら、私はおずおずと問いかける。


「瘴気の封印を解いたんじゃねぇ。瘴気を発していた悪霊の封印を解いたんだよ。あろうことかそのまま乗り移られて、周辺一帯を暴れ回ってやがる」

「ひえっ……」


 激しく舌打ちをしながら起き上がった笹波様は、翡翠に剣呑な目を向けながら何度目かわからないため息をつく。気性なのか苛立ちを抑えきれないらしい。


「で、どうするよ? 統隠局はもうこの際だから一帯ごと焼き払って悪霊の魂ごと消滅させるって決定しちまったんだ。そんなことすりゃ巻き込まれた住民は生活を失っちまうってのに、自業自得だと聞く耳も持たねぇ」

「……はっ、どうせそんなバカげたことを言い出したのは神楽の野郎だろう。くそ、胸糞悪い。何故あのような不届きものが官僚なのか理解が出来ん」

「いっそアイツを焼き払うってのも一つの手だな」


 これまでの態度から薄々気がついていたが、統隠局にはどうやら相当嫌いなあやかしがいるらしい。神楽、とは名前だろうか。このふたりもだいぶ馬が合わなそうなのに、そこに関しては結託していると見えた。