「あの……色々失礼しました。私、少し前からここで居候させてもらっている賀茂真澄と言います。彼は式神のコハク。い、いつも翡翠がお世話になっております」


 ぺこりと頭を下げる私に「お世話になんかなってないぞ」と隣で苦々しく吐き捨てる翡翠。
どうやら相当、彼とは相性が悪いらしい。


「真澄、ねぇ……まあよく見たらそれなりに美人じゃねぇか。及第点ってところだな」


 ──私も、絶対この官僚様とは合わないと思うけど。

 ふたたび暴れだしそうな翡翠と、静かに霊力を纏わせた小刀を構えているコハクに内心ため息をつき、私は「それで」と無理やり話を切り替える。


「笹波さん……笹波様は、翡翠になにかご用があっていらっしゃったんですよね?」


 鼓膜がわれるかと思うほどの大声で翡翠を呼んでいたのだから、これで用がないと言ったらさすがに追い出そう──と思いつつ尋ねると、笹波様はハッとしたように頷いた。


「そうだ。こんな茶番してる場合じゃねぇ。緊急事態だ」

「……緊急事態? 何かあったのか」


 さすがの翡翠も笹波様の様子に眉間にしわを寄せながら問い返す。


「枝垂れ村の件で進行があった。つーか、もう手遅れかもしんねぇ。いや、とにかく──このままだと明後日、あの辺り一帯全て焼き尽くされちまうぞ」


 誰かが息を呑む音が響いた。

 ──枝垂れ村が焼き尽くされる。

 言葉の意味を頭の中で理解できない。それはつまり、どういうことなのだろう。

 呼吸すらも許されないようなシンとする空気の中、額に手を当ててより眉間のしわを深くした翡翠が苦々しく声を落とす。


「……詳しく、話を聞こう」