「式神は主にすべてを捧げる。身も心も運命でさえ全て主のものとなる。ですからボクはこうして真澄さまのおそばにいるのです。いかなる時でも主のために動き、いかなる状況でも主のためならば他の犠牲を厭わない──真澄さまに聞かれたら、泣かれそうですが」

「泣くだろうな、真澄は。優しいやつだから。……きっと、おまえが消えても泣くぞ」

「そうですね。ですが、式神は本来そういうものです。妖怪の本質が残忍で卑劣で慈悲のないモノであること、神の本質が想いや祈り、願いで出来ているのと同じこと。そこに個々の性格が絡んでくるのは間違いありませんが、式神の忠誠心は縁よりも強い。一度選んだ主には、命の末路まで仕え尽くします。それになにか問題でも?」


 つまるところ、翡翠は危惧しているのだろう。

 真澄の式神である『コハク』という存在が、いずれ自分の枷にならないか。

 ──否、もうすでになってしまっているのか。


「……俺は、真澄のためならなんでもする。おまえとは意味が異なるだろうが、真澄に全てを捧げる覚悟ならもう出来ているからな。──だがもし、おまえが真澄のためにならない存在だと判断したら、その時は、躊躇しない」

「ええ、構いません。ボクもあなたさまが真澄さまの弊害になると判断すれば、即刻排除させて頂きますので、その辺りはお互い様ですね」

「そんな可愛い顔してるくせに、恐ろしいなおまえ」


 ぶわり、とコハクの周囲に冷気が満ちる。


「お褒め頂き光栄です。ですが真澄さま以外に可愛いと言われると殺意しか芽生えないので、どうか次はないとお思い下さいませ。つい手が滑って首をかき切ってしまいますゆえ」


 あまりに冷ややかなその笑みに、さすがの翡翠も面食らった。