「我らが仕える主に相応しい器、というのは限られますから」
「──それは、真澄がおまえのお眼鏡にかなったということか」
「それも然り。ですが、なにもボクだけの話ではありません。あの黙示録に封印されている式神たちの多くは真澄さまを主として認めています。ああボクは意識下で彼らと繋がることが出来るので、想像でも嘘でもありませんよ。ただの事実です」
翡翠の顔が曇る。はて、とコハクは首をひねった。
この男はすでにわかっているものと思ったが、もしやまだ気づいていないのだろうか。
「つかぬことをお聞きしますが、旦那さまは『黙示録』と呼ばれる由来はご存じですか?」
「……黙示。暗黙の示し、だろう。他言無用なモノたちを記録する、そういった意味だと理解していたが」
「ええ、仰る通り、あの黙示録にはボクのような『わけあり』なモノたちが多く封印されています。その種はさまざまですが、いずれも何かしらの業を背負っているモノ達です」
なればこそ、普通の『式神』とは異なる点がいくつかある。
「あの黙示録に封印されている式神には、主を選ぶ権利がある。ボクにしろ、他のモノたちにしろ、ただ式神黙示録の持ち主というだけで『主』とは認めない。だからこそ、元主に封印されてからこの時まで、誰ひとりとして黙示録の封印を解いたものはいませんでした」
翡翠は黙ったまま何も言わない。悟っているのか考えているのか、ふむ、わからない。
「ですから真澄さまは『特別』なのですよ。ボクたち式神にとって、なによりも」
この男が主の夫になるかもしれないと聞いた時、まずコハクが抱いた思いを知ったら、真澄は仰天して泣き出してしまうかもしれないな、と思う。自分は穢れている。そう告げた時でさえ、疑いを知らぬ純朴な瞳でコハクを捉えてきた彼女なら。