「そう暴れるな、落ちるだろう」
「だから誰なの……⁉」
「俺のことはいい、後だ。今はそいつをどうにかしないとまずい。完全に力が解放されて制御不能になれば、ここら一帯はあっという間に壊滅するぞ」
──辺り一帯が、壊滅する……?
なんて恐ろしいことを言ってくれるんだろう。
顔も分からなければ、どんな姿をしているのかも分からない。たとえ人の形をしていても私を抱きかかえて宙に浮いている時点で、少なくとも人間ではないことは明らかだ。どこから現れたのかもわからない相手。信用に値するかと言われたら、絶対的にノー。
けれど、不思議と今の言葉が私を騙すための虚言ではないとわかった。
「よく聞け、真澄。時間がないから手短に説明するぞ」
困惑しながらも、私は男の声に耳を傾ける。
「まず初めにこれを収める方法だが、主に二択だ。ひとつめ、完全にこやつの封印を解いてしまう。あるいはふたつめ、単純にふたたび封印し直す」
「ど、どっちが良いの?」
「ふむ。見るにこの式神は術者から直接霊力を供給して動く、いわば意思を持たないタイプのものだな。しかしこの惨状からして、おまえはまだ霊力のコントロールが上手く出来ていないのだろう? その状態で封印を解いたら制御不能で同じく壊滅一直線……」
「ダメじゃない!」
思わず声を張り上げた。しかし男は呑気に「まあな」と頷いてみせる。
「仕方がない、力量不足だ」
「うっ……え、待って。じゃあつまり封印するしかないってこと……?」
「物わかりが良くて助かるぞ、真澄。ほら、そうとわかればさっさと封印してしまえ」
壊滅するだとか、封印するだとか、力量不足だとか。
やたら軽い口調でとんでもないことを言い放ってくるけれど、普通に考えてこれをコントロールする力がないなら、封印する力もないのではないだろうか。
そんな私の狼狽を知ってか知らずか、男は淡々と説明し始める。
「この式神はおまえが入口を開けたことで外に出ようともがいている状態だ。だから端的に言えば、その入口を閉じ直すイメージで封印をすればいい。簡単だろう」
「い、イメージ……」
「なんだったか……ああ、思い出した。『開けゴマ!』と念じて扉を開ける有名な話があるだろう。ようはあんな感じに封印を解いたわけだから、それの逆をイメージしてみろ」
まったく意味がわからない。
逆ということは『閉じろゴマ』とでも念じればいいのだろうか。いや、そもそもこれはゴマじゃないし扉でもない。だいたい私には封印を解いた覚えもないのだ。
さらに混乱を極めながらも、私はぐちゃぐちゃになった思考をなんとかまとめて必死にイメージする。得体の知れないモノの声を安易に聞くのは御法度だけれど、こうなったらとにもかくにもやるしかない。この平穏な土地を壊されるわけにはいかないから。