私には、正直それがどれほど危険なことなのかわからない。
そうして生まれてきた『コハク』が、本当にいま私の目の前にいるコハクと同一人物なのかもわからない。あまりに結びつかないのだ。今の話を聞いてもなお、この世の何よりも清らかだと思っていた彼が穢れた存在だなんて私にはとても思えないから。
信じられない……いや、信じたくない、の方が正しいか。
神と変わらぬ力を持った式神を使役する術者──というステータスは、間違いなく後世に受け継がれていくものだ。いくら禁忌となって、その事実まるごと歴史の闇に葬られたとしても……こうしてコハクの存在が残る限りは永遠に。
つまり私は、そんな陰陽師の後を継いでコハクの主人になったということになる。
「式神になったことで確かに命は繋ぎ留めましたが、何者でもない存在に宿る力などたかが知れています。神霊の魂が混じりあっているとはいえ、神の力など何一つ使えないのです」
自分が生きていることを確認するように胸に手を当てて、コハクはじっと私を見つめた。
その瞳に渦巻く深い悲しみと忠誠心に、心が大きく揺さぶられる。
「──真澄さま。今ご説明した通り、ボクは神にも妖にも人にもなれなかった存在です。無理やり度量の違う魂を結び付かせたせいで、魂そのものが歪な形をしています。永遠の命なんていいますが、正直いつ壊れるかわかったものじゃありません」
「そんな……っ」
「それに、忠行さまはボクを式神化するにあたって自らの霊力をボクに分け合いました。そのとき頂いた力をエネルギーとして、今はなんとか形を保っている状態なのです」
──式神としてはあまりに不十分すぎる。
今にも泣きそうな顔で苦しそうに続けたコハクは唇を引き結んで長いまつ毛を伏せた。
「長いあいだ眠っていたおかげでエネルギーを浪費することは避けられましたが、それでもこうして覚醒した以上いつかは底がつくでしょう。……ちゃんと話さなければならないと思ってはいたのですが、なかなか打ち明けづらく……申し訳ありません、真澄さま」
「そん、なの……」
気にしなくていい、なんて、とても言えなかった。
たまに見せるコハクの切ない眼差しは、これが原因だったのだろうか。
自分がいつ消えるかわからない、そんな重圧が彼にそんな目をさせていたのだろうか。
頭の中がぐるぐると渦巻く。嫌だ。失うなんて、嫌だ。もう二度とあんな思いはしたくない。
だってコハクまで私の前からいなくなってしまったら、私はもう──。
目の前が真っ暗に染まりかけた時、時雨さんが「でも」と優しく声をあげた。