「無意味、ですか。確かにそうかもしれませんね。人の子の体というのは、神とは違い、魂を失えば劣化していくものですし」


 コハクは神妙に頷く。


「いくら魂が長らえても、身体がオンボロではなんの意味もない。そこで忠行さまは、まだこの世に生まれていない魂と作り上げた魂を入れ替えるという手段をとりました」


 全身にぞわっと悪寒が走る。……魂を、入れ替える?


「──具体的に言えば、神霊と結びついたとある白ヤモリの魂と、生贄となったとある赤ん坊の魂が入れ替えられました。まあ、上手くいくはずもありません。ただの人の子の体に神にも等しい魂が入るのは負荷が大きすぎる。体を守るための霊力も足りませんし、言い換えればこの行為は『人の子を神格化する』のと同義です。そのようなこと許されない」

「でも、じゃあ、その赤ちゃんの魂は……」


 コハクは息を詰まらせる。まるで刃物を刺されたようなその顔に、私はなにか触れてはならない傷に触れてしまったのだ、と悟った。けれど謝るよりも前にコハクが言葉を紡ぐ。


「ヤモリの中に入れられた赤ん坊の魂は、融合に失敗してすぐに消滅。一方の赤ん坊の方は、忠行様が『式神』とすることで魂が暴走し肉体が壊れるのを防ぎ、どうにか事なきを得ました。……とは言っても、そうして生まれてしまった『モノ』は、ただの失敗の産物です。決して、永遠の魂を持つ人間なんかではない。かといって、神でも、妖でもない……」


 時雨さんはコハクに同情のこもった視線を向ける。


「それは『罪』そのものです。何も悪くない赤子の魂だけでなく、それ以前の実験で犠牲になった多くの魂の怨念を全て背負う穢れた存在でしかありません」


 ──そう、今の話は他でもないコハク自身の話なのだ。

 コハクがこの世に生まれて、式神になるまでの話。