「そうでしょうね。術者はすでに魂のない人間の体を器として、動物の魂と神霊を繋ぎ合わせることで新たな異形を作ろうとしたのですが、その実験自体は失敗に終わっています。上手くいくはずもありません。魂など、本来繋げられるものではありませんから」


 けれど、と喉が詰まるように続けたコハクは、一瞬だけひどく辛そうに見えて。


「秘密裏に、その実験を続けた者がいたのです。この事実を知っているのは恐らくボクだけでしょうから、時雨さまが知らないのも当然です。むしろ、知らなくて良かった」

「……残してはならない結果を生み出した、ということですか」

「ええ、決して成功とまではいきませんが、結果的にその実験は『この世の理から外れたモノ』を生み出してしまいましたから。それが世に知られれば大変なことになります」


 コハクはなんとも言えない深い悲しみを宿した瞳をこちらに向けて、わずかに微笑む。


「真澄さま。実験を行った術者は賀茂忠行──ボクのかつての主だった人物です」

「か、賀茂……? え、私のご先祖さまってこと?」


 コハクが答える前に驚いたように目を見張った時雨さんが「まさか」と呆然と呟く。


「賀茂忠行と言えば、陰陽道の歴史に大きく名を残したお方のはずですが」

「その通り。忠行さまは陰陽道の立場を確立させた人物と言っても過言じゃありません。かの有名な安倍晴明の師であり、当時の陰陽師のなかでは別格で、誰ひとり彼の隣に並ぶものはいなかったとされています。……本当に、偉大な方だったのです」

「ひえっ……」


 そんなに有名な陰陽師が先祖にいたことすら知らなかった。いくらこれまで避けて通ってきたとはいえ、さすがに自分の無知さを恥じる。


「忠行さまが成功させたのは、あくまで動物と神霊の魂を繋ぐということだけでした。すでに亡きものになっている人間の器に新たな魂をいれても無意味だ、というのが彼の考えだったからです。無論、そのような規格外なことが出来るのは忠行さまくらいでしょうが」


 そんなに恐ろしい実験をした人と同じ血が流れていると思うと、思わず寒気を覚える。ごくりとせり上がってきた生唾を飲み込み、気持ちを落ち着けるべくお茶を啜る。