「真澄さん」


 肩を揺さぶられ、私はようやく呼びかけられていたことに気づく。

 ぼうっとした意識を引き戻して瞼をあげると、心配そうにこちらを覗き込んでいた時雨さんの顔が、ほっとしたように和らいだ。ぼうっとする頭を横に振り、息をつく。


「良かった。少し潜りすぎてしまったようですね」

「あ……もう終わりですか?」

「ええ。今日もお疲れさまでした」


 窓の外を見れば、縁側に射し込む日差しは修行をはじめた時間と比べるとずいぶん色味を増していた。最近は日が昇るのが早い。本格的な夏はもうすぐそこだ。

 どっと疲れが押し寄せて、私は大きく伸びをする。凝り固まった肩の筋が伸びて気持ちが良い。前にコハクが言っていた通り、霊力を自らの意思で操ろうと思うと、だいぶ心身に負担がかかるらしい。

 意識を研ぎ澄ますためにはまず無にならなければいけないのに、今日はいつにも増して思考が散乱していた。静かだとどうしても色々なことを考えてしまう。


「すみません、集中しきれてなくて」

「え?」

「なんか最近、よく考えるんです。陰陽師ってどんな人達だったんだろうなって。私のご先祖様だけど、あんまり想像できないというか……」


 そもそも私が持っているものと同じ力なのかも怪しいところなのだ。

 直系とはいえ、話に聞いていた限り、ここ数代で霊力を持っていたのは祖母だけだし。


「そうですね。……歴史上、正規に陰陽師という職があったのはもう千年以上前のことですし、その頃の霊力の使い方と今の霊力の使い方は、やはり多少なりとも異なっているのではないでしょうか。霊力は使い方次第で、如何様にも変容可能な力ですから」

「もしかして、見たことあるんですか? その、千年以上前の陰陽師の姿を」

「いえ、その頃はまだ自分は神格化していませんでしたから、実際に見たことはありません。翡翠も微妙なところですね。唯一あるとするなら、コハクくんじゃないでしょうか」


 ほっそりとした顎に指を添え少し考えるように言われて、私はきょとんと目を瞬かせる。