「ほ、ほら翡翠も食べよ。遅くなるとお昼寝から起きたりっちゃんが拗ねちゃうし」


 そのことを翡翠には悟られたくなくて、私はまた話を逸らす。

 ああもう、まただ。この世界に来てから、すぐに泣きたくなる。

 どうしようもなく胸が締め付けられるこの感覚は、嫌いだ。だってきっと、本当にどうしようもないことだから。それが辛いと訴えかけてくるから、こんなに痛むんだ。

 ──付喪神になるには、それなりに長い年月が必要で。

 いつか本当にこの手鏡が付喪神になったとしても、そこに持ち主である私はいない。姫鏡のように娘か、孫か、そのまた孫が持っているかもしれない。

 その時、もしも翡翠がまだ私のことを覚えていてくれたとしても──今日こうして、贈り物を交換しあったことを覚えていてくれたとしても、それはしょせん、永遠にも近い長い長い神さまの時間の、ほんの一瞬の出来事に過ぎないのだ。

 人の寿命は短いから。神さまとは比べ物にならないくらい、短いから。

 私は締め付けられる喉の痛みを誤魔化すように、ふたたび白玉クリームあんみつを食べ始める。甘い、甘い、あんこの香り。だけど今は、ほんの少し、しょっぱくて。


「……自分が贈る立場でも充分幸せだったのにな。俺はやはり真澄には敵わん」


 思わず、無理やり口に詰め込んだ白玉をつまらせそうになった。

 感慨深そうに扇子を見つめて、翡翠はゆっくりと立ち上がると、何を思ったかこちらへ身を乗り出してきた。翡翠がたまに焚いている白檀の香りがふわりと鼻をつく。