「あのね、実は──」


 若干声が震えてしまうほど緊張を滲ませて、私もさきほど買った翡翠へのプレゼントを取り出す。さとりのおっちゃんは言わずとも贈り物用に梱包してくれたけれど、そういえばかくりよにもこのような『想い』を贈る文化があるのだなと思う。

 祖母から聞かされていた妖の『本性』を考えると、少し不思議で。けれど、温かい。

 同じ心を持つ者であることはたとえ人でも妖でも変わらないのだと、ただそう信じたくなってしまうくらいには、私がこの世界に来て触れあった人たちは優しかった。

 私の凝り固まっていた心を、まるで春の息吹を送り込むように溶かし解してくれた。

 ──そんな世界に私を誘ってくれたのは、他でもない翡翠だ。


「受け取ってくれる? 私も翡翠になにかお礼をしたくて、その、選んだんだけど」


 まさか自分がもらうとは思いもしなかったらしい。丸皿のように目を見張り、私と差し出したプレゼント袋を交互に見る。あからさまに戸惑いながら「俺に、か?」と尋ねてきた翡翠に、私は照れくささを隠しきれないまま頷いて見せる。


「うん。あの、えと……いつもありがとう、翡翠」


 いざ口にすると気恥ずかしくて、私ははにかみながら頬をかく。さらに目を大きく開いて私を凝視し、信じられないような顔でゆっくりと梱包を解いていく。

 そうして姿を現した扇子を見ると、今度はひどく嬉しそうに破顔した。


「っ……!」


 え、ちょっと待って、待っ、な、なにいまの表情──と突如もたらさせた『イケメンの無邪気な笑顔』という凶器に後頭部をガツンと殴られる。それはそれは、思いきり。

 いつもの大人っぽい微笑みでも、余裕たっぷりにからかってくるニヤつきでも、官僚としての不敵な嘲笑でも、裏の顔が垣間見える悪い笑みでもない。それはまるで子供が探し求めていた宝物を見つけた時のような、純粋そのものの、無防備極まりない笑顔。