「ん~っ! なにこれ、美味しい! あんこも甘すぎなくて絶妙だし、はあ、もう幸せ」


 やっぱり美味しいものには敵わない。前言撤回。今後は定期的に来よう。


「本当に上手そうに食うな、おまえは。見ていて気持ちがいい」

「そう? あ、翡翠も一口食べる? ……二口でも、良いよ?」


 ちょっと勿体ぶってそう言うと、どこかいたずらな表情を浮かべた翡翠がにやりと笑う。


「なんだ、あーんでもしてくれるのか?」

「あ、あーん……⁉」


 な、ななななな、なんてことを言ってくれるのこの神さま⁉

 そんな、そんな、カップルみたいなこと、とぐるぐると目を泳がせてから、はたとそういえば自分が仮とはいえ許嫁の立場にいることを思い出す。

 神さまの許嫁。あらためて考えてみれば、なんてとんでもない言葉だろう。

 まともな恋愛経験だってないのだ。そんな女子が神さまとはいえ異性と、しかもこんなに美麗極まる容姿の持ち主と、いったいどう心を処理ししたら『あーん』なんて。

 だってそれって、いわゆる、か、か、か……。


「っ──!」


 意識した途端ぼふんと顔から火が吹き出そうになり、思考がショートしかけた。

 ぱくぱくと金魚のように口を動かすことしかできなくなった私に、翡翠が吹き出す。


「くくっ……そんな、あからさまに照れるなよ。悪かった。冗談だ、冗談」


 絶対に私が出来ないと踏んでからかっている顔に少し悔しくなってくる。

 そりゃあ、私よりもずっと長い時を生きている翡翠からしたら、あーんくらいなんてことないんだろうけど。い、いや、私だってやろうと思えばそのくらい!


「ああ、そうだった。さっきの渡しておかないとな」


 なかば投げやりな勇気を出して白玉とあんこをスプーンにすくった時、不意に翡翠が懐から綺麗に包装された紙包を取り出した。おばちゃんの店のロゴに、あっ、と思う。