「あやつらは美しさを特徴としたような妖怪だからな。とはいえモノの本質、魂を見る神からすれば容姿などただの入れ物に過ぎないし、俺は真澄の方がよほど美しいと思うぞ」

「息するように真顔で褒めるの本当に心臓に悪いからやめてほしい……」

「当たり前だろう? 俺は真澄を口説かにゃならんのだから。──が、人から見れば美しく感じるんだろうということは理解している。人は、やたらと外聞を気にする生き物だ」


 頬杖を解き、翡翠はどこか遠くを眺めるように窓の外へと目線を投げる。


「だが実際のところ妖もそう変わらん。あのふたりがうつしよで生活していた頃、あまりに綺麗すぎるが故に、一部の妖怪から嫌な思いをさせられたこともあったと聞く」

「……え? 嫌な思いって」

「正確に難があるのは否定できないが、強さと美しさを伴った存在は妬み僻み嫉み辛みなどの負の感情、いわゆる反感を買いやすいのだろうな。その『違い』が浮き彫りになればなるほど、違いを異物と誤認する輩は出てくるんだ。千差万別という言葉があるように、この世には一つとして同じものなどないことをわからないやつが多すぎる。人も、妖も」


 一瞬、怒っているのかと思った。銀色の瞳にふと陰りが落ちたような気がして。

 しかし次の瞬間には、その陰りは跡形もなくなくなっていた。こちらを向いて何事もなかったかのように微笑を浮かべる翡翠に、ドキリと心臓が強く胸を打つ。

 ──もしかして。


「ま、あやつらに関しては、そのへんの妖とは比べものにならないほど強いから真澄が心配する必要はないさ。今こそ大人しく甘味処をかまえているが、あの女鬼共が抱える武勇伝はひとつやふたつじゃない。大妖とまではいかずとも妖力だけなら頭角を現すくらいにはな」

「へ、へえ。そうなんだ、すごい、ね……」


 あやかしにはあやかしの過去がある。