──けれど、これはさすがに、甘やかしすぎやしないだろうか。


「あの、そんなに気を遣わなくても良いんだよ? 手鏡くらいなくても大丈夫だし」

「なに、ただ俺が贈りたいから贈るだけだ。気にしなくていい。ああ、他に欲しいものがあるのならそれも買って良いぞ。この俺に遠慮など無用だからな」

「そ、そうじゃなくて……!」


 翡翠に悪気がないことは分かっていても、欲しいものをなにもかも与えられていたら、私はどんどんダメな人間になってしまう。それだけはだめだ、絶対。

 どう伝えたら良いのか分からず頭を抱えていると、不意に呆れたような顔をしたおばちゃんが思い切り翡翠の肩を叩いた。びくりと体を跳ねさせ、信じられない面持ちで翡翠はおばちゃんを凝視。よほど衝撃だったのか、反応が数拍分たっぷりと遅れていた。


「いっ……はあ⁉」

「お熱いのは結構だけどさ、バカだねえ、あんた」


 さらに唐突な罵倒に、翡翠だけでなく私までぎょっとする。


「バ……っ」

「贈りもんをするのに自分で選ばせてどうするんだい。どれが似合うか、どれを贈りたいか、そういうのを贈り手が頭を捻らせて選んだもんだから、もらった方は嬉しいんだろ。そんなこともわかんないようじゃ真澄ちゃんが可哀想だよ」

「そ、そういうものか……?」


 おばちゃんに叩かれた肩を擦りながら、困惑気味に私を見上げてきた翡翠に、コクコクと頷く。言いたかったこととは若干異なるが、自分で選ぶよりはいくらかマシだ。


「じゃあ真澄ちゃん、旦那が選んでる間そのへんの店でも見ておいで」

「は、はいっ!」


 ──おばちゃんありがとう、感謝!

 あまり遠くへは……という翡翠の声を背中で聞きながら、私は数軒隣のお店まで走る。

 もう逃げるに限る。翡翠とふたりきりでのお出かけは、私にはまだ少し早かったようだ。


「はあ……顔が熱い……」

「あんれ、珍しい客だっちゃね」


 膝に手をつきうなだれていた私に気づき、そばのお店から店主がひょこっと顔をだした。