電車に揺られながら、脳裏に一昨日の出来事を映した。
眠りから覚めたような心地になりながら、窓の外を眺める。
もう二時間ほどたったのだろうか。初めは大きな建物や看板が見えていたのに、いつの間にか線路の真横を家々が並び、田舎らしい緑の世界が広がってきていた。
ここはどこなのだろう。でもまあ、いいや。今日は思うがままに動く日。
最終、スマホさえあれば、位置情報なり地図なりを使って帰ることができるし。
どうせなら五つくらい向こうの県にでも行ってやろうかな。
私が悩んだ日の翌日に出て行かなかったのかには、理由がある。
一月二日には親戚の集まりがあって、お年玉を大量にもらえるからだ。
すなわち、今私の懐は暖かいということ。
安いホテルになら、一泊くらい泊まれそうだ。
電車がガタンと揺れ、スピードが落ちる。車内アナウンスで、次の駅名が優しく耳に触れた。
『標山~、標山です。お降りのお客様は、お忘れ物の無いようご注意ください』
しめやま?
駅名だけが妙にゆっくりと聞こえた。電車が完全に止まり扉が開くと、ぞろぞろと人が降りていく。
なんとなくその波に乗りたくなって、慌てて私も電車を降りた。
その駅は、最近改装したと言わんばかりに綺麗だった。
屋外にむき出しになっているホームは、壁が黒に近い色で塗られているにも関わらず、日の光に照らされ、明るく感じられた。
田舎のはずなのに人は多いし、一体ここに何があるというのだろう。
そう思いながらも、私は人の流れに身を任せて歩いて行った。