俺に抱きすくめられた朔が、腕の中で身を固くする。

不安そうに震える朔に、俺は心からの言葉をささやいた。

「いなかったら、じゃねぇよ。『朔がいたから』俺はお前に会えたんだろ」

「お兄ちゃん……」

朔が涙声で俺を呼ぶ。

俺の家を出ていくのが朔の意志なら、加賀美に朔を任せようと思ってた。

だけど、気が変わった。

「ガキのくせに、大人に変な気ぃ遣ってんじゃねーよ。泣き喚いても暴れてもいいから、本当に思ってることをちゃんと言え。わがまま言うなよ、クソガキ!って思うときもあるかもしれないけど、それでも俺がちゃんとお前の言い分にも耳傾けてやる。わがまま言ったって、嫌ったり見捨てたりしねーよ。迷惑かけられたとも思わない。だって、俺はお前の家族なんだろ」

静かに涙を零していた朔が、俺の腕の中で唸るみたいな掠れた声を漏らす。

頭をそっと撫でてやると、それまで震えながら必死に堪えていた朔の声が徐々に大きくなった。

「う、わぁぁぁっ……」

朔が泣くのを見るのはこれが二度目。

だけど、その泣き方は一度目のときよりもずっと年相応の子どもらしかった。

腕の中で泣きじゃくる朔を抱きしめて、その背をゆっくりと、とんとんと叩く。

朔が泣き止んで落ち着くまで、俺はそうして朔を抱きしめていた。