突然マンションのインターホンが鳴ったのは、母の葬儀が終わって2週間後の日曜日の午後だった。

その日は朝から雨が降っていた。

だらだらと午前中を過ごして遅めの昼食をとり、暇をつぶしていたところへの来客だった。

親父が宅配便以外で、うちのインターホンが鳴ることはない。

部屋着のままでドアを開けたから、そこに紙袋を持ったスーツ姿の男がいたから驚いた。

年は、親父よりも少し若いくらいだろうか。

雨が強かったうえに紙袋を庇って歩いていたのか、スーツの肩が片方だけ濡れている。

男が持っている黒い傘の先端からは、ひっきりなしに雨水が流れ落ちていた。


「あの、どちら様ですか?」

変なセールスだったらどうしよう。

ドアを閉めるタイミングを考えつつ話しかけると、スーツの男が困ったように眉を寄せて小さく会釈した。