病室で見た、やせ細ったあのひとの白い腕が脳裏に浮かぶ。

胸が騒ついて、スマホを握りしめたまましばらく動くことができなかった。


「陽央、大丈夫か?」

ゆっくりとした声で親父に話しかけられてはっとする。

何を動揺してるんだ、俺は。

あのひとは、朔の母親だ。今の俺には関係ない。


「陽央?」

「あぁ、聞こえてる」

「今から車で迎えに行くから、いつでも出れるようにしといてくれ」

「わかった」

電話を切って顔をあげると、朔が不安そうな目をしていた。

勘のいい朔のことだから、何か感じ取っているんだろう。

黒目がちの朔の瞳を見つめ返しながら、どう切り出そうか迷う。

「ママ……?」

「危篤だって。今から親父が迎えに来る」

朔の顔からすーっと血の気がひいていく。

だけど彼女は取り乱すこともなく、俺を見上げてつぶやいた。

「準備するね」