「お兄ちゃん、ありがとう」

気のせいかもしれないけど、俺にスマホを返す朔の声がいつもより浮かれているような気がする。

訝しむように見ていると、朔が俺を見上げて嬉しそうに頬を上気させた。

「再来週、ママがうちに帰ってくるって」

口元を緩める朔の声が弾む。

「へぇ、退院できるってこと?」

朔が母親とまた一緒に暮らせるようになるのは喜ばしいことだ。

だけどその朗報が、意外にも俺を複雑な気持ちにさせていた。

朔の母親が帰ってくるということは、彼女がここを出て行くということだ。

数ヶ月前に朔が初めてうちにやってきたときは、なんて迷惑なお荷物を俺に押しつけてきたんだと親父を恨んだけれど……

狭い部屋を朔と共有することになれた今、彼女が去ってしまうことを淋しいと感じている自分がいる。

朔にとっては母親と元の家で暮らすとこが一番幸せなはずなのに。