「淋しかったら、簡単に他の男にヤらせんだ?」

皮肉っぽく笑って訊ねると、俺の腕を抱きしめていた奈未の力が抜けた。


「ハルヒサ、あたしは――……」

「言い訳とか別に聞きたくない。俺はもう帰るから、そいつにでも慰めてもらえよ」

奈未に冷たくそっけない言葉を投げつけると、顎でしゃくるようにして矢吹を指す。


「ハルヒサ……」

潤んだ奈未の瞳から涙が零れる。

彼女の涙を無表情で見つめる俺の視界の端で、矢吹が愉しそうに俺たちを見ていた。

矢吹に一瞥を投げてから、奈未に背を向ける。

その瞬間、背後で奈未が嗚咽を漏らしながら泣き崩れるのがわかった。


「ハルヒサ……」

奈未が泣きながら俺の名前を呼ぶ。

けれど、彼女に背を向けて歩き出した俺は一度も後ろを振り返らなかった。