あまり雨の降らない梅雨が終わり、大学の夏休みが差し迫っていたその日。

夕方になっても暑さが和らぐことはなくて、冷房をつけていないと汗が止まらないほどだった。

朔と一緒に簡単な夕飯を済ませた俺は、塾講師のバイトに向かうためスーツに着替える。

冷房のついた部屋だと、何とか我慢できるネクタイと長袖のシャツ。

でも、バイト先までの道中クーラーが効いているわけではない。


俺は準備を整えると、床にぺたんと足をつけてぼんやりと座っている朔に声をかけた。


「じゃぁ俺、バイト行くから」

声をかけると、朔はゆったりとした調子で首を動かして俺を見上げた。

俺を見上げる朔の目はどことなくぼんやりとしていている。


「眠いのか?」

なんとなく焦点が定まっていないように思える朔の黒い瞳にそう訊ねると、彼女は僅かに首を横に振った。


「眠かったら、先に寝ててもいいから」

俺はぼんやりと顔をあげている朔を見て苦笑いを浮かべると、スーツ用の革靴を履いて部屋を出た。