それから黙って歩き出す。
チビが向かっているのはちゃんと駅の方角だった。
しばらく歩いていくチビの小さな背中を見つめていた俺も、急ぎ足であとを追う。
さっき本の話をしたときは嬉しそうに目を輝かせていたのに、彼女はもう一言も言葉を発しなかった。
駅についても、電車に乗っても、俺の部屋についても。
チビはずっと押し黙ったままで、狭い部屋に自分で布団を広げて俺に背中を向けて眠ってしまった。
部屋のローテーブルの上、学童保育から借りてきた本がそのまま置きっぱなしになっている。
俺は古びたその本を手に取ると、パラパラとページを捲った。
真ん中を過ぎたあたりのページで、乱雑に挟まれたシロツメクサの花とクローバーが出てくる。
それはさっき見たときよりもしおれ、変色してしまっていた。
そういえば、俺の実の母親も素朴なこの花が好きだったような気がする。