まずは、普段から自分の話し声を意識してみた。すると――気が付いたことがある。
 確かに、話す時は無意識に相手の声の高さに合わせようとする傾向があるのだ。だから特に、男らしい太い声の相手の時は話すのが苦手なのだ。カジ谷君の壊れた電車アナウンスのトーンは高く、そのことも彼相手だと無理なくあの声が出せたのかな、と思い当たった。そういえば西川代表のトーンもやや高めだ。以前、紗枝さんに言われたことが、全くその通りだということを理解したのである。
 すると、少しずつ改善の兆しが見え始める。ただ、自分では劇的と思う変化でも他人から見るとそれほどでもないらしいのだが。まあ、その通り。自分の声はあくまで自分の声。全く別人の声に変われるわけではないのだから。
 ボーカル教室での成果も出始めた。こちらは先生の言によると、「来たわね!」ということらしい。上達の度合いは一定ではなく、伸び悩んで停滞の状態が続いた後、ある時期急に伸びることが多々あって、その時期が来たということらしい。それは、紗枝さんの言う「ドベネックの桶」の話ともつながるのかな、という気がしている。

「お前、最近うるさい」
 これは桑原である。
「それはすまん。声の音量は抑えてるつもりなんだが」
「うるさいというか、はっきり聞こえるというか、前みたいに不快なノイズではないのだが」
「ほう」
「いいけど、さすがに長時間はかんべんしてくれ」
 他人が変化を感じられるのは、かなりの変化だ。よい兆しだった。
 そこで、思い切って、胸に秘めていた行動を実行に移すことに決めた。