MoonBeamsでのライブの夜の事を考えていた。あれは何だったのだろう。夢と現実が混ざり合ったような、どこまでが夢でどこまでが現実なのかわからない、不思議な体験だった。
ただ、試されていたことはわかる。僕は、何を恐れていたんだろう。自分の意識の奥底の行き止まり、そこに魔物が住んでいた。その存在がずっと、悪夢を見せていたのだ。しかし、その正体は言わば「空っぽ」だった。僕は、在りもしない自分の幻という存在におびえていたということなのか。そして結果的に、夢の中の袋小路の扉が開いた。それは確かだ。あれ以来、あの悪夢からは解放されているのだ。
そして、あの時の深川先輩、あれは本当に夢だったのだろうか?
扉の向こうの庭園は、僕の夢の中だけの世界だったはずだ。でもあの時の深川先輩の存在は、夢というには激しくリアルだった。とは言え、
「Re:Person」の三角関係の話も噂レベルでは知っていたことなので、あそこで出て来ても納得は行く。ただ――
本当に不思議なのはそのことじゃない。あの夜の帰り道で、深川先輩は「これじゃ、理由にならないかしら?」と、確かに言った。問いかけたのは夢の中だったはずなのである。でも、そのことについてはもう、あえて聞いてみようとは思わない。僕の記憶違いということが十分にあり得る。それほど、精神的に色々と混乱していたのである。
とは言え、やはり気になったので、今日MoonBeamsで聞いてみた。
「僕は何もしていないよ。見守っていただけだ」
マスターには軽くいなされた。ただ、こんなことも言う。
「ただ、あの日は満月、だったからね」
壁の鏡は、最初に見た時のように曇っていた。そこは、魔法などかかっていないいつもの店内であった。そのことに逆に安心するのである。
紗枝さんは「うまく行ったようね」と言って、意味ありげに笑う。
「紗枝さんは、本当に未来のことがわかるんですか?」
単刀直入に聞いてみる。
「私は予言者じゃないわよ。無意識の中のその人の声を聞いてあげるだけ」
相変わらず、謎のような言い方である。
「それが本職だし、ね」
「あっ、そうでした!」
精神科医。それ以外の印象が強すぎて、そのことを完全に忘れていた。すると、それを見透かしたかのように、紗枝さんが言った。
ただ、試されていたことはわかる。僕は、何を恐れていたんだろう。自分の意識の奥底の行き止まり、そこに魔物が住んでいた。その存在がずっと、悪夢を見せていたのだ。しかし、その正体は言わば「空っぽ」だった。僕は、在りもしない自分の幻という存在におびえていたということなのか。そして結果的に、夢の中の袋小路の扉が開いた。それは確かだ。あれ以来、あの悪夢からは解放されているのだ。
そして、あの時の深川先輩、あれは本当に夢だったのだろうか?
扉の向こうの庭園は、僕の夢の中だけの世界だったはずだ。でもあの時の深川先輩の存在は、夢というには激しくリアルだった。とは言え、
「Re:Person」の三角関係の話も噂レベルでは知っていたことなので、あそこで出て来ても納得は行く。ただ――
本当に不思議なのはそのことじゃない。あの夜の帰り道で、深川先輩は「これじゃ、理由にならないかしら?」と、確かに言った。問いかけたのは夢の中だったはずなのである。でも、そのことについてはもう、あえて聞いてみようとは思わない。僕の記憶違いということが十分にあり得る。それほど、精神的に色々と混乱していたのである。
とは言え、やはり気になったので、今日MoonBeamsで聞いてみた。
「僕は何もしていないよ。見守っていただけだ」
マスターには軽くいなされた。ただ、こんなことも言う。
「ただ、あの日は満月、だったからね」
壁の鏡は、最初に見た時のように曇っていた。そこは、魔法などかかっていないいつもの店内であった。そのことに逆に安心するのである。
紗枝さんは「うまく行ったようね」と言って、意味ありげに笑う。
「紗枝さんは、本当に未来のことがわかるんですか?」
単刀直入に聞いてみる。
「私は予言者じゃないわよ。無意識の中のその人の声を聞いてあげるだけ」
相変わらず、謎のような言い方である。
「それが本職だし、ね」
「あっ、そうでした!」
精神科医。それ以外の印象が強すぎて、そのことを完全に忘れていた。すると、それを見透かしたかのように、紗枝さんが言った。