その流れから、深川先輩が思いがけず、こんなことを言った。
「あの、演劇? 声を出す練習にもいいわね。よく通ってたわ、いい声ね」
どうも、カジ谷君が飛び出す前から僕の声を認識していた、とのことである。
――いい声
「本当――ですか?」と恐る恐る、聞いてみる
「もし、僕が普段からあの声で話したりすると、ヘンじゃありませんか?」
あの音域。高いから、変だからと思って無意識に抑えていた、あの声――
「そんなことは全然ないわ。むしろ、いい声じゃない」
「え? 男らしくない、とは、思わないですか?」
すると、深川先輩は僕をまっすぐに見て、言ったのである。
「真堂君らしい、とっても素敵な声だったわ。その声で『木洩れ日』も歌ったらさまになるのにね」
「でも、僕ではマスターのようには歌えないですよ。伴奏だって、あんな風にはできない。僕は――」
マスターとは違う、と言いかけた時、深川先輩が言った。
「『Re:Person』に真堂君を誘った理由はね、真堂君の演奏からも、マスターと同じような感覚と心地良さ、そういうものを感じたからなのよ」
「!」
以前に一度、マスターの伴奏で演奏したことがあり、その時の安心感と併せ易さが忘れられなかったらしい。そして、新入生自己紹会で、同じものを僕の演奏にも感じて驚いた、というのである。
「真堂君の演奏が好き。これじゃ、理由にならないかしら?」
ああ、その言葉。誰でも良かった中の僕じゃなく、最初から「僕」だった。選ばれていたのである。
この瞬間何かが、わからないけど確かに、先ほどまで眼前で止まっていた「何か」が、胸の中を突き抜けて行った。
そして、満月が顔を出す。
――満月の夜に、閉ざされた扉は開かれる。
「恐いくらい当たる、って私の周りでは有名」と囁いた深川先輩の言葉を思い出す。それを今、実感した。
<<「深川先輩!」>>
「そう、その声よ。あ、今度それ『Re:Person』でも採用しようかな」
<<「はい、よろしくお願いします!」>>
「でも、いつもその調子じゃ、ちょっと疲れるかもね」と言って、深川先輩が笑う。
――はい。実はけっこう大変なんです、これ。
「あの、演劇? 声を出す練習にもいいわね。よく通ってたわ、いい声ね」
どうも、カジ谷君が飛び出す前から僕の声を認識していた、とのことである。
――いい声
「本当――ですか?」と恐る恐る、聞いてみる
「もし、僕が普段からあの声で話したりすると、ヘンじゃありませんか?」
あの音域。高いから、変だからと思って無意識に抑えていた、あの声――
「そんなことは全然ないわ。むしろ、いい声じゃない」
「え? 男らしくない、とは、思わないですか?」
すると、深川先輩は僕をまっすぐに見て、言ったのである。
「真堂君らしい、とっても素敵な声だったわ。その声で『木洩れ日』も歌ったらさまになるのにね」
「でも、僕ではマスターのようには歌えないですよ。伴奏だって、あんな風にはできない。僕は――」
マスターとは違う、と言いかけた時、深川先輩が言った。
「『Re:Person』に真堂君を誘った理由はね、真堂君の演奏からも、マスターと同じような感覚と心地良さ、そういうものを感じたからなのよ」
「!」
以前に一度、マスターの伴奏で演奏したことがあり、その時の安心感と併せ易さが忘れられなかったらしい。そして、新入生自己紹会で、同じものを僕の演奏にも感じて驚いた、というのである。
「真堂君の演奏が好き。これじゃ、理由にならないかしら?」
ああ、その言葉。誰でも良かった中の僕じゃなく、最初から「僕」だった。選ばれていたのである。
この瞬間何かが、わからないけど確かに、先ほどまで眼前で止まっていた「何か」が、胸の中を突き抜けて行った。
そして、満月が顔を出す。
――満月の夜に、閉ざされた扉は開かれる。
「恐いくらい当たる、って私の周りでは有名」と囁いた深川先輩の言葉を思い出す。それを今、実感した。
<<「深川先輩!」>>
「そう、その声よ。あ、今度それ『Re:Person』でも採用しようかな」
<<「はい、よろしくお願いします!」>>
「でも、いつもその調子じゃ、ちょっと疲れるかもね」と言って、深川先輩が笑う。
――はい。実はけっこう大変なんです、これ。