深川先輩とも、この「新入生自己紹会」が縁だった。
僕がこの時歌ったのは、「木洩れ日」の曲だった。それも代表作とは言えないアルバムの、中でも目立たない曲調の地味な、でも僕自身にいつも寄り添ってくれるような、最もお気に入りの曲をコピーしたものだった。伴奏も、苦労して耳コピーでコードを拾った上で、アレンジを自分なりに変えてみた。コピーと言うよりはカバーに近い。誰も知らないはずの曲のアレンジを変えたって誰が気が付くのか、と言われる。でも、それくらいの思い入れがあるんだ! という意味を込めた、ささやかな主張のつもであった。言い換えると、ただの自己満足なのだけれど。
なのに、それに真っ先に喰いついてきたのが深川先輩だったのだ。
「今の、『木洩れ日』の『Coffee Breakのあとで』でしょう! 懐かしい、私、大好きだったの。それに、アレンジが斬新だったわ!」
「あっ、あ、はい、あの、、あの、、、うぐっ」
「えっ――ち、ちょっと、ねぇ大丈夫?」
深川先輩は、一学年上のお姉さんである。見た目も言動も派手寄りの女子が多いこのサークルの中ではあまり目立たない方なのだが、初めて見た時の、その柔らかい立ち振る舞いと物静かな姿が対照的で逆に印象深く、密かに憧れを抱いていた人だった。同時に、この場に所属していなければ僕には縁のないであろう世界の天上人であろうことも、瞬時に理解したのであるが。
そんな高根の花自らが、昔からの気の置けない友人であるかのような口調で、前触れもなく突然話しかけて来たのである。そのギャップと、いきなりパーソナルスペースの密接距離にまで飛び込んできた「近さ」に、あまつさえ白い灰になって全く無防備だった僕は真剣に心臓が止まりかけたのであった。
後に本人の語ったところによると、好きな物には見境なく一直線な傾向があるとのこと。自覚があって普段は自制を心掛けているのが、そんな物静かな印象になるのかも、との自己分析。つまり、僕の「演奏」がそんな自制が思わず外れてしまう程度には気に入ってもらえた結果である、ということらしい。
この時の出来事は「深川の瞬殺事件」としてサークル内ではちょっとした語り草になってしまった。以来、僕は深川先輩の忠実な「僕」の役回りとして周囲に認知されているようである。まあ、全然悪い気はしていないのだけれど。
僕がこの時歌ったのは、「木洩れ日」の曲だった。それも代表作とは言えないアルバムの、中でも目立たない曲調の地味な、でも僕自身にいつも寄り添ってくれるような、最もお気に入りの曲をコピーしたものだった。伴奏も、苦労して耳コピーでコードを拾った上で、アレンジを自分なりに変えてみた。コピーと言うよりはカバーに近い。誰も知らないはずの曲のアレンジを変えたって誰が気が付くのか、と言われる。でも、それくらいの思い入れがあるんだ! という意味を込めた、ささやかな主張のつもであった。言い換えると、ただの自己満足なのだけれど。
なのに、それに真っ先に喰いついてきたのが深川先輩だったのだ。
「今の、『木洩れ日』の『Coffee Breakのあとで』でしょう! 懐かしい、私、大好きだったの。それに、アレンジが斬新だったわ!」
「あっ、あ、はい、あの、、あの、、、うぐっ」
「えっ――ち、ちょっと、ねぇ大丈夫?」
深川先輩は、一学年上のお姉さんである。見た目も言動も派手寄りの女子が多いこのサークルの中ではあまり目立たない方なのだが、初めて見た時の、その柔らかい立ち振る舞いと物静かな姿が対照的で逆に印象深く、密かに憧れを抱いていた人だった。同時に、この場に所属していなければ僕には縁のないであろう世界の天上人であろうことも、瞬時に理解したのであるが。
そんな高根の花自らが、昔からの気の置けない友人であるかのような口調で、前触れもなく突然話しかけて来たのである。そのギャップと、いきなりパーソナルスペースの密接距離にまで飛び込んできた「近さ」に、あまつさえ白い灰になって全く無防備だった僕は真剣に心臓が止まりかけたのであった。
後に本人の語ったところによると、好きな物には見境なく一直線な傾向があるとのこと。自覚があって普段は自制を心掛けているのが、そんな物静かな印象になるのかも、との自己分析。つまり、僕の「演奏」がそんな自制が思わず外れてしまう程度には気に入ってもらえた結果である、ということらしい。
この時の出来事は「深川の瞬殺事件」としてサークル内ではちょっとした語り草になってしまった。以来、僕は深川先輩の忠実な「僕」の役回りとして周囲に認知されているようである。まあ、全然悪い気はしていないのだけれど。