「今日の、助っ人を引き受けたのはそのことも理由の一つなの」
「今日のソロは、とっても良かったです。深川先輩の新たな一面を見た気がします」と、僕は、思ったことを伝えた。
「ありがとう。でもそれは、真堂君に触発されたからよ。負けていられないと思ったの」
「……」
 深川先輩にそんなふうに思われていたとは、気がつかなかった。僕は上手な言葉を探したけれど、でも見つからずに、しばらく沈黙が続いた。いつのまにか深川先輩が僕と並んで歩いていた。こちらをじっと見ているのがわかる。僕は前を向いたまま、やっと口を開いた。
「僕は、感謝してるんです。深川先輩に声をかけてもらわなければ、音楽を続けていなかったかもしれないんです。だから、まだ実力は全然足りないけれど、せめて足を引っ張らないようにと――」
 秘めていた思いをぶつける。本当だった。深川先輩の誘いがなければ、「北窓」を活動休止にした時、そのままなし崩し的にサークルも辞めていたであろうと思う。
「だから、その――僕で、いいんでしょうか?」
 意を決して、深川先輩のほうを向く。目が合った。顔が赤くなったのがわかる。夜道で良かった。何故だか、告白、みたいな言い方になってしまった。けれど、違うんです。そういう意味ではなく、音楽の――
 自ら墓穴を掘ったような状況、ではあるのだけれども、青い薄明かりの下の深川先輩はとても綺麗だ、と思った冷静なもう一人の自分が居た。
 すると、深川先輩が視線を落として、こう言った。
「一方通行の想いだけでは、関係は成り立たないのよ。私も真堂君に救われているの」
「それは――」
 深川先輩は答えず、今度は空を見上げて言った。
「あ、見て、月が出るわ」
 雲が切れて、正面に満月が顔を出していた。急激に明るさが増す。え? ここは――
 いつの間に通り過ぎたんだろう? 気が付くと、左カーブを過ぎて橋がもう目の前に迫っていたのである。