自分の叫び声で飛び起きた。僕はMoonBeamsのテーブルに突っ伏していたのだ。
 夢? 天国から地獄に急降下したような、嫌な夢だった。けっこうリアルだったけれど、深川先輩の様子が違い過ぎた。あれは僕の願望なのか? いや、まさか。
「真堂君、大丈夫?」
 紗枝さんの声である。あ、本当に眠っちゃったのか。顔を起こして壁の時計を見ると、まだ三十分位しか経っていなかったのだが。
「じゃあ、そろそろ帰ります」と深川先輩が言っているのが聞こえた。
「あ、真堂君、送って行ってあげてね」と言う紗枝さんに促され、僕は椅子から立ち上がった。
 店を出ると、いつものように深川先輩が先に歩き出す。
「今夜は満月なのに、残念だわ。でも、もうちょっとで雲が切れそう」と深川先輩が言った。
 後ろ手を組んで、見上げた空の、月は雲に隠れてしまって――あれ? 視界が揺れる。既視感を覚える。僕は酔いが回っているのだろうか。
「そう言えば、最初にカジ谷君に襲われたのもこの近くなんですよね」
 気が付くと、僕はさっきの夢と同じことを言っているのである。
「ねえ真堂君、ちょっと回り道して、そっちを通ってみない?」
「え? でも、ちょっと寂しい通りですよ?」
「大丈夫、真堂君もいるし。散歩よ、少し歩きたい気分なの」
「いいですけど」
 既視感が続いている。信号を渡りながら、首を振る。思い違いではない。今のやりとりは確かに、さきほど夢の中とほぼ同じなのだ。なんだろう、胸騒ぎがする。僕は黙って深川先輩を先導して歩いた。
「ここを曲がるんです」
 あの角を曲がって路地へ入った。大丈夫。そう、あの行き止まりまで行かなければいいんだ。
「あそこです。あの街灯の下ににいたんですよ」
 今夜は街灯の光も存在感が乏しい。カジ谷君が出たのがこんな夜だったら、また違った印象だったかもしれない。よし、絶対次の角から曲がろう、とそのまま前に立って歩を進める。「意外と明るいわね、ほら、道路が浮かび上がってるみたい」と、後ろから深川先輩が言う。
 雲はもう、端の部分がかかっているだけでほとんど月から離れつつあった。空を見上げていると、今度は予想外な言葉を投げかけられた。
「――その彼のおかげなのかな、なんだか、真堂君は最近ちょっと変わったわよ」
「え? そんな自覚はないんですけど」
「生き生きしているというか、ちょっと羨ましいかな」
 思ってもみなかった言葉に驚く。すると、深川先輩は更に意外なことを言う。