何はともあれ、これでこの件に関してはきっぱり終わりだった。ちょっと心配なのは、西川代表の告白にカジ谷君もショックを受けている様子であるのと、後始末に何か問題が起きるかもしれないこと。でも、それはあくまでサークル内の問題である。最後にちょっと予想外の言葉を聞くことになったのが気になるけれど、僕として出来ることはすべてやったのだ。
「あ――」
それでは、と腰を浮かせかけて、ふと思い出した。「ところで、あの暗号とは?」
犯行の日時と場所を示した廃屋の暗号、こちらは、僕一人がわかっていないのである。
「あれは、本の内容じゃなくて、ページ数自体が重要だったんですよ」と言って、奈緒さんはテーブルに備え付けの紙ナプキンを広げ、何やら書きながら説明をしてくれた。
江戸川乱歩全集1 214頁、224頁
江戸川乱歩全集2 141頁、154頁
「ページの数字をつなげると――」
214224141154
「そして、これを、二桁ずつ区切ると――」
21、42、24、14、11、54
「?」
「ポリュビオスの暗号表で換算するんです」
「ポリビュオスの――?」
「古代ギリシャの時代に考案された有名な暗号です」
それは縦横5マスずつの表にアルファベットを当てはめた換算表を使った暗号だった。奈緒さんは紙ナプキンにその表を書いた。見覚えがある。あの部屋で書いていたのがそれだったのである。
アルファベットは26文字だが、IとJを同じマスに入れることで縦5行×横5列の25文字のマスに収めている。これを、暗号の二桁数字の一桁目を縦軸、二桁目を横軸の位置に当てはめると――
21は「F」、42は「R」、24は「I、J」のどちらか、14が「D」、11が「A」、そして54は「Y」
すると――あ、FRIDAYか。
「パンフレットの挟んであった『算盤が恋を語る話』は、この仕組みを応用した暗号の話なんです」
「じゃあ、『タイムマシン殺人事件』の方は?」
「付箋の位置は20ページだった。この暗号に0はないから、これは別物。『タイムマシン殺人事件』のタイトルから、時間を連想して、単純に20時と」
「なるほど。では場所は?」
「パンフレットに住所が――」
これはもう、そのままである。
「見事」「その通り」と、西川代表とカジ谷君は小さく手を叩く。
言われてみればそういうことか。だけど、これはかなり、出す方と解く方がツーカーじゃないとわかりにくいのではないか? 吉田君はまだそこまでじゃなくても、奈緒さんとカジ谷君にとって、この程度はお手の物ということなんだろうけれど。
そう感想を述べると、「そこが、身内で楽しむ会、なのよ」と言って、奈緒さんは微笑んだ。
「やはり、僕は居なくても良かったのかもしれない――」と、ぼやくと、
「そんなことはないですよ。私には兄の企みを見抜けなかったですし」
「さすが、真堂さん」
「いや、ご協力には、感謝の言葉もない」
三者三様に、くすぐったいほど持ち上げて来る。結局、その辺もちゃんと息の合っている会である。そういえば、この会の連中は全員が一筋縄では行かないことを思い出した。何も心配は無いのかもしれない。
「あ――」
それでは、と腰を浮かせかけて、ふと思い出した。「ところで、あの暗号とは?」
犯行の日時と場所を示した廃屋の暗号、こちらは、僕一人がわかっていないのである。
「あれは、本の内容じゃなくて、ページ数自体が重要だったんですよ」と言って、奈緒さんはテーブルに備え付けの紙ナプキンを広げ、何やら書きながら説明をしてくれた。
江戸川乱歩全集1 214頁、224頁
江戸川乱歩全集2 141頁、154頁
「ページの数字をつなげると――」
214224141154
「そして、これを、二桁ずつ区切ると――」
21、42、24、14、11、54
「?」
「ポリュビオスの暗号表で換算するんです」
「ポリビュオスの――?」
「古代ギリシャの時代に考案された有名な暗号です」
それは縦横5マスずつの表にアルファベットを当てはめた換算表を使った暗号だった。奈緒さんは紙ナプキンにその表を書いた。見覚えがある。あの部屋で書いていたのがそれだったのである。
アルファベットは26文字だが、IとJを同じマスに入れることで縦5行×横5列の25文字のマスに収めている。これを、暗号の二桁数字の一桁目を縦軸、二桁目を横軸の位置に当てはめると――
21は「F」、42は「R」、24は「I、J」のどちらか、14が「D」、11が「A」、そして54は「Y」
すると――あ、FRIDAYか。
「パンフレットの挟んであった『算盤が恋を語る話』は、この仕組みを応用した暗号の話なんです」
「じゃあ、『タイムマシン殺人事件』の方は?」
「付箋の位置は20ページだった。この暗号に0はないから、これは別物。『タイムマシン殺人事件』のタイトルから、時間を連想して、単純に20時と」
「なるほど。では場所は?」
「パンフレットに住所が――」
これはもう、そのままである。
「見事」「その通り」と、西川代表とカジ谷君は小さく手を叩く。
言われてみればそういうことか。だけど、これはかなり、出す方と解く方がツーカーじゃないとわかりにくいのではないか? 吉田君はまだそこまでじゃなくても、奈緒さんとカジ谷君にとって、この程度はお手の物ということなんだろうけれど。
そう感想を述べると、「そこが、身内で楽しむ会、なのよ」と言って、奈緒さんは微笑んだ。
「やはり、僕は居なくても良かったのかもしれない――」と、ぼやくと、
「そんなことはないですよ。私には兄の企みを見抜けなかったですし」
「さすが、真堂さん」
「いや、ご協力には、感謝の言葉もない」
三者三様に、くすぐったいほど持ち上げて来る。結局、その辺もちゃんと息の合っている会である。そういえば、この会の連中は全員が一筋縄では行かないことを思い出した。何も心配は無いのかもしれない。