――MoonBeamsに行った方が良かったかもしれない。
 一行は電車通りに出て、目についたファミリーレストランに入ったのだが、カジ谷君と西川代表が、とても目を引く姿なのであった。
 大きなカバンを持ったカジ谷君は、ピッタリの全身黒タイツに、銀色の短パン。首から水玉のネクタイをぶら下げている。確かに、恐怖感を抱かせる心配は少ないとは思うが、それにしても怪しすぎた。西川代表も燕尾服に派手な鉢巻姿である、おまけにプラカードを持ったままの入店だった。西川代表の着替えは、西川代表が潜んでいたビルの、バイト先の教室にあるとのことであったが、なんとなくそのまま来てしまったのである。
 一瞬たじろいだ店員だが、すぐに、平常の営業スマイルで四人掛けの席に案内してくれた。ただ、人の少ない、かなり奥の方ではある。
 空気が、重かった。
 むっつりとした顔で向かいの席に並んで座っている西川代表とカジ谷君は、仮装パーティーの帰りと言った様子で、おまけに服はあちこちに汚れがついている。こちら側――お洒落なスタイルの奈緒さんと、変装を外した「正装」の僕――との対比は、かなり妙な感じであろうと思えた。誰も口を開かない。注文を受けに来た若い女性店員の声も、心なしか固かった。
 カジ谷君がテーブルに置いたお面に目が行く。明らかに顔より小さそうだし、強化バージョンとか言っていた割には、そのクオリティーは何だ? へのへのもへじのように見えるが、もしかして――ダダ? いや、あえて聞かないでおく。奈緒さんの作った前回のケムール人とは雲泥の差である。カジ谷君は伏し目がちに、ちらちらと奈緒さんの方を見ているようである。
「よく、今夜だとわかったな」
 憮然とした口ぶりで、ついに西川代表が奈緒さんに話しかけた。
「あれくらいの暗号。わざとでしょう?」
「それは――奈緒にも心配をかけているようだったしな」
 西川代表は、複雑な表情である。
「まあ、気付いて欲しい、という思いも半分はあった」
 これはやはり、僕が出しゃばるまでもなかったのかな?
「結局、どういうことなんですか?」と言うカジ谷君は、全くわけがわからない様子である。
 そうか、君も巻き込まれた側だった。僕も、口を開く
「これは『面白いお笑いの実証実験』の名目で行った――いわゆる『ドッキリ』と言われる形態のお笑い企画なんだよ」
「え?」と、驚いた様子のカジ谷君。
「ドッキリ、だから、結果は想定外の方が面白い――観客というか仕掛け人の側はね」
「仕掛け人?」
「そうですよね、西川さん」