「ぼ――ぐっ」
間一髪! 僕の左手がカジ谷の口に届いた。顔がのけぞった反動で、カジ谷君の足がもつれる。すると「させるか!」と言いながら、西川代表が後ろから僕につかみかかって来た。
直後に、ガクっ、と衝撃があって僕はバランスを失った。「危ない!」と奈緒さんの叫び声。
「なっ!」「がっ」
西川代表が僕に体当たりする形で――僕らは三つ巴の塊になって、角の向こうに転がり出た。
「ぼふぅえええ」
二人分の体重が乗しかかる形でつぶされたカジ谷君から、世にも不思議なうめき声が上がった。三者三様に絡まりあって、街灯の下で、もがいていた。
気が付くと、アンクルストラップのサンダルを履いた細い足首が目の前にあった。街灯の下、顔を上げると、え? 深川先輩!
そこには、まぎれもなく深川先輩が、両手を口に当てて目を見開いていた。
「ちょっと、何? これ」
僕はとっさに「召し取ったりぃい。一件落着う」と叫んでいた。半分、やけである。
「真堂君、なの? その髭は――」
「あ、驚かせちゃいましたか。仲間と新しい喜劇の練習で」
苦しい言い訳である。
僕のすぐ横で、西川代表も顔を上げた。見ると、持っていたプラカードが男三人の山から、お子様ランチの旗のように生えているようである。それを見た深川先輩が、表情を崩した。
「あなたは――西川君? 何、その恰好。あなたもお仲間?」
「あ……、」と西川代表は一言発したっきり、表情が固まる。
ん? 今のやりとり、深川先輩と顔見知りなのか? 驚いて、西川代表と深川先輩の顔を交互に見た。すると
「ふふっ、何だか知らないけれど、とっても面白かったわ」そう言って、思いもよらず深川先輩は笑うのである。
「……」
西川代表は言葉を失ったまま、深川先輩を見上げている。
「じゃあ引き続き、練習、がんばってね」
深川先輩は、何事もなかったように、僕が曲がってきた幹線道路の方へ歩いて行ってしまった。方角的に、MoonBeamsから来たのだろう。でも、どうしてわざわざこんな裏道を通ったのだろうか。フルートを持っていたようだけれど。気になるところではあるが、今はそれどころではなかった。ともかく、事故は辛うじて防げたようである。
ふと気が付くと、西川代表の空気が変わったようだった。何だか「抜けた」感じである。
「早く、上から降りて下さいいい」
二人の下敷きになっていたカジ谷君は、真剣に苦しそうであった。
僕は一旦、路上に座り込んだけれど、思い直して提案してみた。
「ちょっと、外ではなんなので、中で話しませんか?」
間一髪! 僕の左手がカジ谷の口に届いた。顔がのけぞった反動で、カジ谷君の足がもつれる。すると「させるか!」と言いながら、西川代表が後ろから僕につかみかかって来た。
直後に、ガクっ、と衝撃があって僕はバランスを失った。「危ない!」と奈緒さんの叫び声。
「なっ!」「がっ」
西川代表が僕に体当たりする形で――僕らは三つ巴の塊になって、角の向こうに転がり出た。
「ぼふぅえええ」
二人分の体重が乗しかかる形でつぶされたカジ谷君から、世にも不思議なうめき声が上がった。三者三様に絡まりあって、街灯の下で、もがいていた。
気が付くと、アンクルストラップのサンダルを履いた細い足首が目の前にあった。街灯の下、顔を上げると、え? 深川先輩!
そこには、まぎれもなく深川先輩が、両手を口に当てて目を見開いていた。
「ちょっと、何? これ」
僕はとっさに「召し取ったりぃい。一件落着う」と叫んでいた。半分、やけである。
「真堂君、なの? その髭は――」
「あ、驚かせちゃいましたか。仲間と新しい喜劇の練習で」
苦しい言い訳である。
僕のすぐ横で、西川代表も顔を上げた。見ると、持っていたプラカードが男三人の山から、お子様ランチの旗のように生えているようである。それを見た深川先輩が、表情を崩した。
「あなたは――西川君? 何、その恰好。あなたもお仲間?」
「あ……、」と西川代表は一言発したっきり、表情が固まる。
ん? 今のやりとり、深川先輩と顔見知りなのか? 驚いて、西川代表と深川先輩の顔を交互に見た。すると
「ふふっ、何だか知らないけれど、とっても面白かったわ」そう言って、思いもよらず深川先輩は笑うのである。
「……」
西川代表は言葉を失ったまま、深川先輩を見上げている。
「じゃあ引き続き、練習、がんばってね」
深川先輩は、何事もなかったように、僕が曲がってきた幹線道路の方へ歩いて行ってしまった。方角的に、MoonBeamsから来たのだろう。でも、どうしてわざわざこんな裏道を通ったのだろうか。フルートを持っていたようだけれど。気になるところではあるが、今はそれどころではなかった。ともかく、事故は辛うじて防げたようである。
ふと気が付くと、西川代表の空気が変わったようだった。何だか「抜けた」感じである。
「早く、上から降りて下さいいい」
二人の下敷きになっていたカジ谷君は、真剣に苦しそうであった。
僕は一旦、路上に座り込んだけれど、思い直して提案してみた。
「ちょっと、外ではなんなので、中で話しませんか?」