「どうしても、だよ、カジ谷君。もう、やめるんだ」
そのためか、そう答えた僕のセリフにも切迫感が出た。
「ダメです。成功例を」
「その必要はないんだよ」
僕はここで息を吸い込み、精神統一をした。肝心なのはここからなのであった。どうしても、「あの声」が必要な場面だった。頼む!
<<「そうですよね! 西川さん」>>
成功だ。通る声が出た。
<<「その辺にいるのはわかってるんですよ。出てきて下さい!」>>
これも、高いけれどよく通る、例の声であった。
ややしばらくの静寂の後、僕の後ろのビルの隙間から、西川代表が現れた。パーティーの余興のような仰々しい恰好である。後ろ手に何かプラカードのような物を隠している。
「え、西川さん?」とカジ谷君が驚く。
「――どうして、わかった?」と言って、西川代表は僕をじっと見た。
「本当は、前回も近くにいたんですよね?」
「……」
「でも、僕の出現が予想外だったからか、怒鳴り散らしたからか、出るタイミングを逸してしまった」
「……だとしたら、なんだと」
「必ずしも結果は笑ってもらう必要はなかった、ってことです」
「!」
現場を押さえ、動かぬ証拠を示して真相を暴露し、絶対に言い逃れはできない状況に持っていく――それが暴走を止める最善、かつ唯一の手段と思われた。
名探偵真堂、さあこれから謎解き、いよいよクライマックス、という場面である。江戸川乱歩なんて、懐かしい名前を久しぶりに目にしたからであろうか、何だか、僕も楽しんでいるようだ。
緊迫と沈黙が続いた。そして、僕が次のセリフを発しようとしたその時、カジ谷君の背後の曲がり角の先の方から――どうやら女性らしい足音が近付いて来たのである。
これは想定外であった。
「何度も邪魔をしてくれるな。今だ、行け、カジ谷」と西川代表が叫ぶ。
頷いたカジ谷君が、ひらり、と身を翻す。出会い頭に脅かす気か、角から顔を出す――
そのためか、そう答えた僕のセリフにも切迫感が出た。
「ダメです。成功例を」
「その必要はないんだよ」
僕はここで息を吸い込み、精神統一をした。肝心なのはここからなのであった。どうしても、「あの声」が必要な場面だった。頼む!
<<「そうですよね! 西川さん」>>
成功だ。通る声が出た。
<<「その辺にいるのはわかってるんですよ。出てきて下さい!」>>
これも、高いけれどよく通る、例の声であった。
ややしばらくの静寂の後、僕の後ろのビルの隙間から、西川代表が現れた。パーティーの余興のような仰々しい恰好である。後ろ手に何かプラカードのような物を隠している。
「え、西川さん?」とカジ谷君が驚く。
「――どうして、わかった?」と言って、西川代表は僕をじっと見た。
「本当は、前回も近くにいたんですよね?」
「……」
「でも、僕の出現が予想外だったからか、怒鳴り散らしたからか、出るタイミングを逸してしまった」
「……だとしたら、なんだと」
「必ずしも結果は笑ってもらう必要はなかった、ってことです」
「!」
現場を押さえ、動かぬ証拠を示して真相を暴露し、絶対に言い逃れはできない状況に持っていく――それが暴走を止める最善、かつ唯一の手段と思われた。
名探偵真堂、さあこれから謎解き、いよいよクライマックス、という場面である。江戸川乱歩なんて、懐かしい名前を久しぶりに目にしたからであろうか、何だか、僕も楽しんでいるようだ。
緊迫と沈黙が続いた。そして、僕が次のセリフを発しようとしたその時、カジ谷君の背後の曲がり角の先の方から――どうやら女性らしい足音が近付いて来たのである。
これは想定外であった。
「何度も邪魔をしてくれるな。今だ、行け、カジ谷」と西川代表が叫ぶ。
頷いたカジ谷君が、ひらり、と身を翻す。出会い頭に脅かす気か、角から顔を出す――