「見知らぬ他人を巻き込むことに、罪悪感は感じないのか?」と問い詰めてみる。すると、 ここでやっとカジ谷君が反撃の口を開いた
「西川さんの作戦は完璧です。今度は、今度こそは絶対にうまくいきます」
 それは、どんな根拠なのだろうか。
「犯罪者になりかねない行為に、そこまで加担しようとする理由は何? 西川代表に何か負い目でもあるのか?」と、僕は更に畳みかけた。
 カジ谷君は、ちょっと動揺したように見えた。しかし、 僕の目をまっすぐ見返して言う
「とにかく止めません。成功させるんです。今度こそ――」
 どうにも、決意は固そうであった。次の言葉が出ない。その表情には、明確な拒絶の色が見えたのである。カジ谷君は、そのままずっと目を逸らさなかった。
「わかった」
 僕は、あきらめた。これ以上は押し込めそうにない。
「そうか、でもせめて――パンツは履いてくれ」
 うなだれて、そう言い残す。
 正面からの説得はやはり無理そうである。次の手を考えなければならない。しかし、力ずくで止めようにも、四六時中見張りでもつけない限り、実行を止められないだろう。それに、今回止められたとしても、本人達が納得しなければまた繰り返すかもしれないのだ。公的権力の介入も視野に入れなければならない最悪の状況も想定する必要があるのか? それだけは避けたいところであるのだが。
 ところが――
「え? パンツは履きますよ」と、ここでカジ谷君の声の調子が変わった。
「え?」
「と、言うか、ちゃんと衣装は着ます。お面もケムール人じゃなく――」
「え。それって――やるのはリアルな変質者路線じゃないの?」
「いやだなあ、それこそ本物の犯罪者ですよ。やるのはあの、前回の強化バージョンですが」
 議論の流れから、リアル変態路線の、一線を越えないギリギリを攻めるのかと思い込んでいた。奈緒さんも思い違えていたのか。
「リアル路線は木島さんの主張でしたから。西川さんはあくまで予測不能路線です」
「そ、そうなのか」
 確かに、前回僕に仕掛けた方向性なら、多少拗れたとしても、公的権力介入の事態にまではギリギリ及ぶまい。だからと言って、大っぴらにやれ、とはならない所ではあるけれども。
「それに、今度は僕の演技も自信があるんです。前回の真堂さんの犠牲は無駄にはしません。大丈夫、絶対笑ってもらえます!」
 カジ谷君の言う通りだと、犯罪行為に及びかねないのを止める、という大義名分が事実上消滅したことになる。止めるべき正当な理由が、他には思いつかないのだ。
「では、お先に失礼します。結果はそのうちお知らせしますから」
 大いなる思い違いか。
 大騒動に発展するかと思われた事態は、意外にあっけない結末を迎えた――と、この時は思ったのである。