「マスターの歌、聴いたことある?」と、録音を聴いて、何かに気付いた様子の深川先輩が言う。「機会があったら、聴いてみた方がいいと思うの。私の勘だけどね。もしかしたら、何かつかめるかも」
 紗枝さんの謎だらけの占いより、こういうアドバイスが嬉しいなぁ。
「でも、マスター、歌うんだ。知らなかった」
「とっても上手なのよ。それに、また聴きたいって思える不思議な心地よさというか――」と、深川先輩は何かを思い起こすように目を閉じる。
 ――マスターの歌か。興味がある。それは機会があればぜひ聴いてみたい。
 それから、僕は本番当日の話題の流れで、よせばいいのについ、変なお笑い研の集まりに行った話をしてしまった。
すると深川先輩は、影絵のキツネの手つきをして、お茶目に「部屋に葉っぱとか、落ちてなかった?」と笑ったあとで、諭すように言った。
「自分のことは、自分ではなかなか見えないわ。他人を通すと自分がよく見えることがあるの。だから、無駄なことはないと思うわよ。きっと何かヒントがあったはず」
 やっぱり、深川先輩にも占い師の血が流れているような気がする。
 でも実際のところ、こうして聞いてもらうと、少しずつ頭の中が整理されてくる気がしていた。そう、何かを見落としているかもしれない。

 桑原は大笑いである。
「味わって飲めよ」
 いつものように部屋に上がり込んだ桑原には、特別にコーヒーを淹れてふるまってやった。MoonBeamsのマスターから分けてもらった、秘蔵のコーヒー豆である。結果はどうあれ、あの場に出向いたことに後悔はない。それは桑原のおかげとも言えるのだ。
「まあ、生きて帰って来てよかったよ。しかし、確かにそれは想像を超えて面白い」と桑原が笑う。
「こいつ、対岸の火事だと思って!」
 桑原はそれを見て楽しんでいるようで
「でも、これで終わりってことはないだろ? もうお前は巻き込まれてるよ。完璧にな」
「たのむから、不吉なことを言ってくれるな」
「だって、お前、1/24を引き当てたんだぞ?」
 その不吉な予言は、確かにその通りになった。ただ、それを持ち込んできたのは意外な人物だったのである。