祭りの日の本番ステージ以来の「Re:Person」の練習兼反省会であった。この日の練習場所は、学内のクラブ棟の一室である。ここはフォークソング同好会に割り当てられた部室で、ピアノやドラムセットも置いてあるが、大きな黒板もあって、高校の音楽室のような部屋だった。
一応予約制だが、空いている時間帯は早い者勝ちで使っていいことになってい
る。室内には歴代の有名OBの写真やサインが貼ってあり、実はプロになったOBのものもあるのだが、これはこっそり偽物のサインにすり替えられているのだった。不法侵入者による盗難未遂騒ぎがあって以来、その対策とのことである。高校時代も、表立った組織での活動には縁が無かったので、こういう「それっぽい雰囲気」さえ、なんとなく嬉しいものである。
そう、妙な連中の騒動に巻き込まれておろそかになっているけれど、本職はこっちなのだ。だいたい、声というか歌の閉塞状況をなんとかしようとして紗枝さんの占いに従ったら――僕の解釈が本当に合っていたとして――その結果がどうにもスッキリしないのである。僕自身の事態打開のヒントなり、何か新しい展開なりは見えず、逆に、謎の集団のせいで混迷が深まっている気がする。
 カジ谷君からの依頼任務も完了したので、あの連中とはもう何の関係もない。それなのに、考えまいとしても勝手に頭に浮かんでくるのだ。あの集会、あれはいったい何だったんだろう。あの「実験」で西川代表の意図するもの、それにカジ谷君、彼の真意も実はよくわからない。西川代表に心酔しているらしいけれど、だからといって、あんな無茶な役を引き受けるのはどうなんだろうか。あ、いけない。また考えている。
 気が付くと、深川先輩の人差し指が目の前で左右に揺れていた。
「大丈夫?」
「あ、大丈夫。ホントです。ちゃんと食べてます」
 今日は会うなり、顔色が悪い、と心配されたばかりなのであった。
「本当に綺麗な音ね」と言う深川先輩。僕のギターのことである。「音の広がりに、吸い込まれそうな感じだったわ」
 録音を聴いてみたけれど、実際に際立っていたのは深川先輩のフルートで、しっかり芯の通った主張と調和がみごとな出来だった。そして、歌声も。この人は女神様だ、と本気で思えてしまう。僕のギターの腕前はそこまでではなく、ギターの力を借りて、深川先輩のサポート役を辛うじて果たせている、というところ。つくづく、このギターを手に入れて良かった。マスターに感謝である。前の安ギターだったらどうなっていたことだろう、と思うと背筋が寒くなるのだ。
 僕のハモリに関しては、残念ながら、試行錯誤の末のウラ声は使えないという結論を下さざるを得なかった。また、やり直しである。これは仕方がない。