今回のテーマに沿って、各自がそれぞれに考えて持ち寄ったらしい。サンプルの言葉から想像するに、なんだか怖いもの見たさのレベルではある。
「では、我が会期待のホープ、吉田君から」と西川代表が指名する。
 吉田君は、大きく文字が書かれたスケッチブックを見せながら、ボソボソと読み上げて行く。

遺恨(いこん)」「怨恨(えんこん)」「悔恨(かいこん)」「私恨(しこん)」「痛恨(つうこん)」「事実無根(じじつむこん)」「多情多恨(たじょうたこん)

 まるで呪いの呪文のような、お笑いのネタというそもそもの目的が全く見えない、単なる言葉の羅列である。当然、オチなんかもない。先ほどのサンプルだと、最後に西川代表が何かオチをつける流れだろうか。僕ならどんな風に――と思って注目していると
「いいね。最初にしてはとても良い出来。その調子です」と西川代表は満足げである。
「真堂さん、どう思われます?」と西川代表がいきなりこちらに話を振ってきた。僕は思わず「いや、西川さん、吉田君にぞっこん(・・・・)ですね?」と答えていた。
 すかさず、奈緒さんが短く拍手。ややしばらくして木島副代表も「へぇ、うまいな」と拍手。カジ谷君まで「あ、ぞっこん、か」と頷く。
 え、しまった。まずいなぁ。そんなつもりは全くなかった。しかも「うまい」とは。いきなり指名されて、つい口走ってしまったのである。やはり毒されているのか。
 ――というか、今のは予期せずハイトーンの通る声だったような気がする。

「では、私は『さい』で」と、木島副代表が口を開く。「実力者」と紹介された木島副代表の番である。

「学園祭」「うるさい」「青二才」「泥臭い」「はんかくさい」――

 さすがにちょっとは高度な感じに言葉を絡めてはいるが

鉄拳制裁(てっけんせいさい)」「一夫多妻(いっぷたさい)」「一切合切(いっさいがっさい)」「玉石同砕(ぎょくせきどうさい)」「有智高才(うちこうさい)」「詠雪之才(えいせつのさい)
 なんだか四字熟語の世界である。

「面白くないね。ごめんなさい(・・)」と言って、木島副代表は額を抑えるポーズを取る。
 僕は思わず「拍手喝采(はくしゅかっさい)!」と叫んだ。
 言葉の切れが良く、妙に響く。一瞬間があって、静かに「おぉ~」と感嘆の声が上がる。その反応、僕は冷や汗が止まらない。
 そこで西川代表が「木島はさすがに博学多才(はくがくたさい)だなぁ、僕なんか浅学菲才(せんがくひさい)で――」と言った。こちらは練りに練った返しなのだが、すでにタイミングを逸している。しまった。またやってしまった――じんわりと後悔が湧いてくる。
 すると、気をよくしたのか木島副代表が「では、もう一つ」と言って、立ち上がった。