よく、同じような夢を見る。いつ頃からだろうか。意識し始めたのはちょうどこの時期あたりからではある。
 どこなのかわからない場所であった。街中のようであり、郊外のようであり、知らない森の中のようでもある。僕は一人でどこかへ向かって歩いている。理由はわからないが、急いでいるのだ。ただ、目の前には薄暗い道が続いていて、どこを曲がっても袋小路に行き当たる。それは、繰り返し、繰り返し、現れる。その先がどこにも繋がっていないことを僕は知っている。でも、ある時突然、道の先が開ける。出口である。そこからは目指していた山の頂が見えるのだ。しかし、その先に道は繋がっていない。間違った出口だったのだ。僕はまた、暗がりに飲み込まれて――
 何度も同じような場所を彷徨い、そして最後には必ず、ある場所にたどり着く。谷である。谷底には河が流れている。黒くて、冷たい濁流が。目の前には橋が架かっていて、渡った先もまた、袋小路の終端なのであった。しかし、それまでとは違って、その先はまだどこかへ続いているようなのである。けれど、そびえる壁のような物に阻まれ、決してそちら側へは行けない。そして突然知る。僕はまた、来てはいけない場所に来てしまったのだと。しかし、引き返そうとして振り返ると、渡ってきた橋がないのである。壁の向こうからは、例のいつもの気配(・・・・・・・・)が近付いて来る。僕は耐えきれずに叫ぶ――けれど、声は決して出ないのだ。
 そして夢は、そこで終わる。
 それは今も続いていた。見た夢を覚えていないことが多い僕にしては珍しく、ましてや繰り返し同じような内容とは。壁の向こうはどんな場所で、何がやって来たのだろう。夢の中の僕は知っているはずなのである。でも目が覚めてしまうと、それが何なのかはかはわからないのだ。行く先を暗示しているのだろうか。どこかで行き詰まると。
 確かに、こと歌に関しては「切り札」とすがったボーカル教室に通い始めてからも色々と壁に行き当たって、伸び悩んでいるのだった。むしろ。「切り札」が思ったような成果につながていないことが、余計に追い打ちをかけていたのだ。
 でも、歌をあきらめたわけじゃない。けれど、早く結果を出したいと焦るばかりで、なかなか上達の糸口が見えず、もどかしい日々が続いていた。そもそも、上達できるんだろうか――それは考えないようにしている。
 ただ正直言って、現実的に状況は八方塞がりだった。
 先月の練習の時、ミスを連発した言い訳にそんな現状をうっかり漏らしてしまったら、カレンダーを見た深川先輩に「ちょっと付き合わない?」と言われて、半ば強引に連れ出された。もちろん僕に異論があろうはずがない。