北山に会った。彼はもう、他のメンバーと組んでいて、僕は過去の人のようだ。どのみち、僕も歌えるようになったらメインボーカルをやりたくなる。かつての関係性には戻れない。
 それでも謝罪して、申し入れた。一度、併せてくれないかと。
「まあ、久しぶりに併せてみるのも悪くないかな」と、北山は快諾してくれた。
 かつて一緒に練習した、クラブ棟でのセッションだった。一年かけてやっと、正面から声をぶつけることができた。気後れなく、きれいにハモった。これが去年出来ていたら――
「惜しい気もするけど、もう相方がいるし。まあ、何か機会があればまたその時に」
 北山は笑顔である。
「わかっている――仕方のないことだし、僕が悪い」
 そして、この日を持って「北窓」は正式に解散した――のだが、
「ところでお前、奈緒ちゃんとなんだか親しいように見えるんだが、説明を求める」
 何? 親衛隊の隊長だと?
「深川先輩といい、奈緒ちゃんといい、お前、羨ましいぞ!」
 北山、お前の「男前」はただの飾りなのか?
 どうやら、自分に当たり前のことは、それがありがたいことだと意外に気付かないものらしい。そのことを教えてもらった気分である。新たに巻き起こりそうな騒動の予感も含めて、大いにありがたがることにしよう。僕は何も持っていない、足りないばかりだと思っていても、実際はこんなに素敵(?)な人達に恵まれているのだ。