「凄いですね……ロンさんは。
亮平さんがまたパラリンピックで走るのを信じて
待っていてくれていたなんて」
きっと聞いたときは、凄く喜んでいたのだろう。
課長を信じていたのならなおさらだ。
「まぁ、因縁のライバルだからな。
お互いに負けず嫌いだし」
「それに……かなりの努力家だ。
早々と簡単に諦めたりしないだろう」
「ロンさんがですか?」
私は、驚いて課長に聞き返した。
かなりの努力家?
だって本人は、何でも出来たと言っていたし
スマートで、あまり細かい事を気にしないタイプに見えた。
すると課長は、少し切なそうにロンさんをチラッと見た。
「ロンは、人前で弱音を吐かない。
俺も人のことは、言えないが……変なプライドや
負けず嫌いな性格で絶対に努力を人に見せたがらない。
だが……その笑顔の裏には、たくさんの苦痛や
努力で築き上げてきたものだ。
事故だって、その時に最愛の母を亡くしているのに
辛さを見せようとしない。
だから俺との勝負も絶対に投げ出したりしない。
俺は、違う形で勝負を挑むつもりだったが
アイツは、パラリンピックで決着をつけたいのだろう。
自分のためにも……」
私は、その言葉を聞いたとき
とても申し訳ない気持ちになった。
彼の気持ちを軽く考えていた。
何でもスマートにやれるものだと決めつけて
彼の辛さや想いを……気づいてあげられなかった。
これじゃあ課長と同じだ。
どんな気持ちでいたのか分かろうともしなかった。
申し訳ない……。
すると課長は、私の頭を優しく撫でてくれた。
「お前は、初対面なんだ。分からなくて当然だ。
大体コイツは、言動が軽過ぎる。
特に女性には、カッコつけるから余計にたちが悪い」
ギロッとロンさんを睨むと頬をつねった。
私は、慌てて止めた。
「か、課長……起きちゃいますから」
「だが俺は、そんな奴は嫌いではない。
真っ直ぐ前を見て努力をする姿は、共感が持てる。
宣言通り俺に勝つためには、血の滲むような
努力だって平気でやる奴だ。
俺もそれに応えるためにも全力でやる」
課長は、そう決心を改めていた。お互いに
似たところがあるから通じるものがあるのだろう。
因縁のライバルだからこそ
全力で挑みたいのだろう。いいなぁ……。
羨ましく思っていたら
課長にギュッと抱き締められてしまう。