出かける際に夏美さんは、慌てて
身だしなみを整えていた。どうしたのだろうか?
不思議に思いながら歩いていたら
課長の部屋が見えた。
チャイムを鳴らすと課長が出てくれた。

「来たな。中に入れ」

「お邪魔します」

私と夏美さんが中に入って行くとすでに
飲み会みたいになっていた。よく見ると松岡さんと
加藤さん以外に車椅子の40歳ぐらいの男性も居た。
その男性が私達に気づいた。

「お、可愛い子ちゃんが集まったな。
どうだい?俺の愛車に乗ってかない?」

明るい口調で話しかけてきた。えっ?愛車……?
車椅子のことだろうか……?
随分と明るい人ね。課長とは、またタイプの違う人だった。

「ちょっと源さん。
俺の婚約者を口説かないで下さい」

「アハハッ……冗談だって。
でも日向君もやるなぁ~こんな可愛い子を
彼女にしちゃうのだから」

課長は、ツッコむが
その人は、からかうように笑っていた。
えっと……?誰だか分からないけど褒められて
恥ずかしくなってきた。

「まったく。結衣、紹介する。
彼は、友人で杉原源一郎(すぎはらげんいちろう)
車椅子の方で100メートルに出場する選手だ」

すると課長が紹介してくれた。
車椅子で100メートル!?選手だったんだ。

「杉原源一郎だ。通称“源さん”
君も遠慮なく源さんと呼んでくれ。
日向君達とは、飲み仲間なんだ。よろしく」

ニコッと自ら自己紹介してくれた。
松岡さんと同じで課長の友人なんだ。
あ、私も自己紹介をしないと……。

「私は、二階堂結衣です。
こちらこそよろしくお願いします」

慌てて頭を下げて挨拶すると松岡さんが
「あまり彼女をからかうと春子さんに怒られますよ?
源さん」と言ってツッコんでいた。