「どうして急に出場することにしたのですか?
もしかして私のため?」
もしそうなら……私のため?
心臓がドクンッと高鳴った。だとしたら嬉しい。
「あぁ、そうだ。義足や障がい者は、
きちんと認知されていないから、なおさら
色々な憶測や偏見で見られたりする。なら
直接大会を見せて技術の素晴らしさや頑張りを
肌で感じてもらう方が最大の近道だと思ってな。
俺が結衣とその家族を晴れ舞台に連れて行ってやる。
そうすれば、お前のお義父さんの考え方も
変わるだろう。それが今、俺がやるべきことだ!」
課長のストイックで真面目な言葉を
聞いていたら涙が溢れてきた。
そこまでして……私のことを考えてくれていた。
嬉しくて余計に涙が止まらなかった。
課長は、そんな私を優しく抱き締めてくれた。
「安心しろ。俺は、絶対に金メダルを取る。
取ったら、もう一度ちゃんとした形で
プロポーズをしてやる」
「……はい。」
私も……頑張りたい。
課長が選手として活躍が出来るように
私も全力で支えてあげたいと思った。
自分が出来ること……それは、何か考え始めた。
それから数日後。
色々考えて課長を支えるなら栄養になるご飯作りもだが
それよりも自分の甘さを変えたいと思うようになった。
そのためにも一から始めるつもりで……。
「えっ?陸上復帰するの!?結衣が?」
それを聞いて驚いたのは、綾音だった。
スポーツクラブで綾音にそのことを話した。
驚くのも無理はない。
「うん。やっぱり私には、スポーツしか取り柄ないし。
それにね。パラリンピックとか色々調べたの。
そうしたらね。私でも参加出来ることを知ったの」
パラリンピックの予選大会は、もちろん
本番もそうだが障害陸上には、細かいクラス分けがあった。
通常の種目分けの他に視覚障害、知的障害、低身長。
運動機能障害では、脳性まひ、車椅子。
そして課長が出場する切断などそれぞれの
障害や状況に応じてクラスが違う。
分けないと不公平になったり
バランスが悪くなってしまうからだ。
私は、右足にボルトが入っている。
競技をやるなら人工骨を手術で入れ直さないといけない。
しかし競技に出る資格を持つことになる。