私は、どうしても気になって尋ねてみた。
するとおたまで味噌汁を混ぜていた
課長の手が一瞬止まった。
だが、しばらくするとまた動き出した。

「あの人は、ただの知り合いだ。
お前が気にするような人ではない」

課長は、表情に出さないようにしていたが
ただの知り合いではないのは、表情で
すぐに分かった。もしかしたら……元カノ?
そう考えたら私は、ズキッと胸が痛んだ。
課長の年なら、何人かの女性と付き合っていても
別におかしくはない。

それは、分かっているのだが
目の前にすると余計に不安になって仕方がない。
綺麗な女性だったから、なおさら
そう思えたのかもしれない。
もし……お互いに未練があったら?

やり直したいと言われたら課長は、
どうする気だろうか?ちゃんと断ってくれるかしら?
気持ちは、モヤモヤしたまま包丁で玉ねぎを
みじん切りにしていた。

しかしその不安は、より現実になった。
ある日曜日に私は、課長に頼まれて押し入れの
中を片付けていた。するとアルバムを見つける。
始めは、興味本位で写真を見ていた。
だがあるページをめくったとき
若い課長の隣で仲良さそうに写っている
あの綺麗な女性とのツーショット写真があった。

次のページもまた次のページも一緒に写っていた。
ラブラブな感じで写っている写真もいくつかある。
あぁ、やっぱり恋人同士だったんだと思った。
微笑むように寄り添う姿は、とてもお似合いだった。
課長……大学生ぐらいだろうか?

ズキッと胸が張り裂けそうだった。
悲しい気持ちになっているとドア越しから
課長の声が聞こえてきた。

「おい、結衣。片付け終ったか?」

ビクッと肩が震えた。
私は、慌ててそのアルバムをしまい込んだ。
聞きたいけど、深く聞くのが怖い。
元カノなのは、間違いないのだろうけど
真実を聞くことが出来なかった。

私は、不安のまま過ごしていた。
言おうか言わないか悩み綾音に相談すると
やはり同じ意見だった。
課長……あの人に未練があるのかしら?

アルバムの写真を残しているぐらいだし
大切にしていたはず。スポーツクラブでも
モジモジと考え込んでいると篠原さんが声をかけてくれた。

「どうしたんだい?元気なさそうだけど」

「あ、すみません。そんなことないですよ」

「そんな風には、見えないけどね。
もし悩みがあるなら私が相談に乗るよ」