「丁度いいところにきた。悪いが手を貸してくれるか?
物を取ろうとしたら手を滑らして
椅子を倒してしまったんだ」
私にそう言ってきた。えっ……?手を貸す……?
私は、不思議にチラッと見ると確かに
床に座っている課長の横に椅子が転げ落ちていた。
あ、脚までもが!?
でも、よく見ると義足だった。
それよりも驚いたのは、ズボンを穿いていても
分かるぐらいに右足が無かった。
「あ、はい。」
驚いたが私は、慌てて課長に肩を貸す。
椅子を元に戻すと課長は、そこに座った。
すると課長は、右足のズボンを捲り上げた。
膝からふくらはぎにかけてスッポリとない課長の右足。
横に落ちていた義足を拾うと脚に包帯を巻き付けていた。
あっという間につけていたが、初めてリアルに見る
脚のない姿。痛々しい姿に驚いた。
普通なら目を背けるかもしれない。でも私は……。
不思議そうにジッと見ていると
「悪かったな。助かった。
どうも片足だけだとバランスを保つのに苦労してな。
たまにうっかりするとこうなってしまう」
課長は、少し困った表情で言ってきた。
確かに、左足だけだとバランスが保ちづらいだろう。
座ってやらないとズボンを穿くのも難しそうだ。
改めて片足だけの大変さを理解した。
なるほど……。
実際に見ないと分からないことだらけだ。
「二階堂。お前……気持ち悪くないのか?」
「えっ?」
急にそんなことを言ってきたので驚いてしまった。
何が……気持ちが悪いの?
意味が分からずに首を傾げた。
「俺の脚がだ。リアルに見る右足。
痛々しいと思うだろう?俺だって最初に
自分の脚を見た時は、ショックでまともに
見ることが出来なかった。
友人や周りも何とも言えない表情をしていた。
陰で『可哀想』だの『気持ち悪い脚』だとか
言われてるのも知っている。だから
お前には、まだ見せたくなかった。
心構えが出来てないと
結構、襲撃的だからな……これ」
課長は、少し寂しそうな表情で話をしてくれた。
私は、その表情を見たとき
きっと深く傷ついたのだろうと悟った。
いくら強い精神力を持っている課長だって人間だ。
心無いことを陰で言われたら傷つくわよね。