そうだったんだ……。
今まで会わなかったのが不思議だ。
それを言うと課長は、どうやら私の前の電車に
乗るため会わなかったらしい。

1つ前の電車か……。今度、早起きして
私もその電車に乗ってみようかしら?

なんて考えてしまった。フフッ……変なの。
会社で会えるのに。そう思ったら笑ってしまった。
歩いている間に駅に着いてしまった。
一緒の電車に乗って帰る。
遅くなったので人も少なく私は、座席に座った。
課長は、私の前に立っていた。

何かを話す訳でもないけど
電車の音と心臓の音だけが聞こえてきた。
静かな空気が余計に緊張する……。
緊張している間に課長の降りる駅になってしまった。
一緒に居ると時間が早く進んでいるように感じる。

「あの……今日は、ありがとうございました」

私は、深々と頭を下げた。
本当は、もっと課長と話がしたい。
それに、こんなに近くに居られるのは、
普段なかなか出来ない。

スポーツクラブだって練習があるから
バラバラになっちゃうし。
何だか寂しい気持ちになってしまった。

「あぁ、こちらこそ。
せっかくの合コンをぶち壊したあげく
遅くまで付き合わせて悪かったな」

課長は、申し訳なさそうに謝ってきた。
合コンのこと気にかけてくれていたんだ?
連れ出したこと……後悔をしているのなら
胸が痛む。私は、それで良かったと思ったのに。
すると課長は、私の頭をポンッと撫でてきた。

「だが、連れ出して正解だったな。
今日は、楽しかった。また機会があったら
旨いもんでもご馳走してやる。
じゃあ、おやすみ」

そう言うと電車から降りてしまった。
心臓がドクンッと大きく高鳴る。
行かないで……まだ離れたくない。

そう想いながら切なそうに課長を見ていたら
ドアが閉まりそうになる。あ、閉まる……。
しかしその瞬間だった。

課長は、何を思ったかドアが閉まる直前に
私の腕を掴まえそのまま引きずり出してしまった。
私まで降りてしまい課長に抱き締められた状態に。

「えっ?課長……!?」