「あ、本当でした。すみません。
病院って検診ですか?」

「それもあるけど……病院で気になる男の子が
居るらしくて、たまにお見舞いがてら
様子を見に行っているらしいわよ。
前に聞いたことがあるわ」

今井さんがそう言って教えてくれた。
病院に気になる男の子……?

「中学生の男の子なんだけど交通事故で
右足が麻痺しているらしくてね。
ずっと塞ぎ込んでいるらしくて
課長は、時々行っては話しかけているみたい」

へぇ~そんな子が居るんだ……。
私は、また課長の意外な一面を知った。
課長は、近寄りがたいけど意外と面倒みがいい。
私にも親切にしてくれたし。
交通事故で右足が麻痺しているのなら
相当酷い事故だったのだろう。
課長と同じ境遇だから気になるのかしら?

そう考え込みながらオフィスを見た。
課長の居ないオフィスは、何処となく静かだった。
電話や社員達の声が鳴り響くのだが……いつもの
怒鳴り声が聞こえてこない。
本来なら平和な日常になるはずなのだが
私には、何だか物足りなさを感じてしまう。

課長の怒鳴り声が当たり前になり過ぎて
中毒になってしまったのだろうか?
だとしたら大変なことだ……。

ため息を吐くと気を取り直して仕事を始めることにした。
それから課長が出勤してきたのは、
お昼過ぎになった頃だった。
少し疲れたように見えるのは、気のせいかしら?
お茶でも出そうかなぁ……。

そう思いオフィスから出ると私は、給湯室に向かい
お茶を淹れようとした。
あ、コーヒーの方が良かったかしら?
うーんと悩んでいたら紺野さん達が
迷惑そうな表情で給湯室に入ってきた。

「あ~あ午前中は、課長が居なくて平和だったのに
出勤しちゃったら空気が重くなっちゃった」

「本当、本当……」

先輩の女性社員の人まで愚痴をこぼしてきた。
私は、黙って聞きながらコーヒー淹れていたが
自分は、まったくそうだとは思わなかった。

怖いせいか誤解をされやすい課長だがら
仕方がないけど本当は、面倒みのいい人だと思うのにな。
けして間違ったことは言っていないし

「あれ?二階堂さん。
それ、課長のコップだよね?」