その言葉に心臓がドクンッと高鳴った。
課長の走りを見ていたら
私も一緒に走りたいと口走りそうになった。
グッと呑み込んだけど……。
「それは、日向君自身が走るのが好きで
仕方がないってのもあるけど
彼の見せる姿勢からだろうね。
彼は、けして走ることを諦めなかった」
えっ?どういうこと?
私は、意味が分からずきょとんとしていると
篠原さんは、少しずつ説明をしてくれた。
「日向君は、もともとインターハイの記録保持者でね。
中学からずっと陸上の短距離をやっていた。
しかし大学生の頃に自分が運転していた車に
居眠り運転のトラックが突っ込んできてね。
運良く命は、助かったが……。
右足は、車に挟まれて神経の損傷も酷くて
出血も多かった。
切断するしか方法が無かったらしい」
そんな……!?
私も交通事故で怪我をしたけど
その事故は、きっと凄い大惨事だったのだろう。
右足を切断……。
一体どうやって受け入れたのだろうか?
想像するだけでも恐怖が襲ってくる。怖いと思った。
思わずジャージの裾を握り締めた。
「そんな時に病院でたまたま彼を見かけてね。
気の毒になるぐらい塞ぎ込んでいたよ。
ほら……私も義足だろ?同じ立場だから
気になって声をかけたんだ。
話している内に彼に、競技用の義足の事を教えてあげた」
「そうしたら、興味を持ったらしく
それからは、必死でリハビリをして義足を使いこなし
今の走れる状態まで努力をして鍛え上げた。
もともと才能と身体能力が高い上に
かなりのストイックで負けず嫌いな性格だからね。
見る見る内にその才能も開花させていった。
そして数年前には、パラリンピックで金メダルを
取るまでに成長していったよ!」
パ、パラリンピック!?
パラリンピックとは、オリンピックと同じ
場所と期間に行われる障がい者のための世界大会だ。
つまり課長は、元パラリンピックの金メダルリスト?
世界優勝者ってこと……?
「元ですよ。元……」
そう言って課長は、呆れたように現れた。
あっ課長!?
「おや?走らなかったのかい?」
「篠原コーチが話に夢中になっているから
戻ってきたんですよ。
あまり俺の過去を気軽に話さないで下さいよ……」
困った表情で篠原さんに言う課長。
私は、課長を見ながら凄いと思った。
そんな辛い過去があったなんて知らなかった。