「うーん、今はね。ブツブツと文句を言いながらも
付き合ってくれます。
昔は……弟・幸哉は、僕に対してコンプレックスを
持っていたらしくて嫌われていましたから
まぁ、周りがすぐに僕と比べるからでもあるのだけど
でも、僕が病気で失明をしてからいい風に関係が変わった。
幸哉……弟は、何やかんやと言いながらも
優しい子だから僕を放っておけないのだと思います」

フフッと松岡さんは、嬉しそうに笑った。
失明してから仲良くなった。
それは、皮肉にも病気のお陰だと言うのか。
誤解をしてお互いにすれ違っていたかもしれないけど
世の中、何が起きるのか分からない。
兄弟にとったら、それがきっかけになった。
それもまた、運命だったのね……。

「まぁ……お前の場合は、それすら侮れないけどな」

課長は、ため息を吐きながらそう言ってきた。えっ?
すると松岡さんは、フフッと得意気に笑っていた。
どういう意味……?
私は、意味が分からずに戸惑ってしまった。

「さぁ、それより早く行きましょう。
映画が始まってしまう」

切り替えるように松岡さんが言ってきた。
結局、課長の言葉の意味も分からないまま
映画を観ることになった。
チケットは、課長が代わりに買ってくれた。

観た映画は、推理ものだったのだが、そこに
切ない恋愛やアクションもあってとても面白かった。
映画を観終わると近くのお店でランチをすることにした。

「あの推理をするときに階段が上がる
音がしていました。そうしたら主人公は、
犯人に向かって……」

ランチをしながら松岡さんは、
詳しくストーリーの説明や感想を話してくれた。
しかし驚くことに松岡さんは、物音などで状況や場所を
言い当てたり役者の台詞を一字一句完璧に覚えていた。
しかも、正確に……。

凄い……。なんて観察力と記憶力だろう。
私も夏美さんも感心しながらその話を聞いていた。
視覚障害だから映画を楽しめないのではないかと
心配していたのだが、むしろ楽しむどころか
話が盛り上がった。

さっき見かけた途中で彼氏が寝てしまい
彼女がそれに対して怒って喧嘩をしていた
カップルよりも充実出来ていると思う。

「凄い……よくそこまで正確に覚えていますね?」

「フフッ……僕は、生まれつき記憶力が良くてね。
それに目が見えない分、聴覚や嗅覚が発達をしている。
だから音や台詞などで場所やストーリーを把握したり
雰囲気で楽しむことが出来るんですよ!
そうだな……例えば洋画を観ているようなもんかな?
字幕だと全部英語だから何を言っているか
分かりませんよね?でも字幕を見たり、雰囲気や状況で
把握したりして楽しむような感じですかね。
まぁアクションみたいなシーンだとなかなか難しいですけど」