今だと分かる……。
だからこそ、前を向くことの大切さ
めげなくなった自分の背中を見てもらいたい。
課長が安心して走れるように。
「亮平さん。もう一度最初からお願いします」
「それは、いいが。その前に手当てをした方が」
「いえ。これぐらいの怪我なら大丈夫です!」
力強く答えると私は、立ち上がった。
そしてまたスタート地点に戻る。二度目の勝負。
今度こそ……。
私は、もう一度全力で走った。
地面を強く蹴り上げ前に向かって走る。
しかし後半にかけて課長に抜かれてしまった。
だが私は、最後まで手を抜かなかった。
結局負けてしまったが……。
「悔しい……でも走れた……」
私は、最後まで走ることが出来た。
見ている……?昔の私。
怪我をしてもちゃんと走れたよ。
そう昔の私に話しかけていたら涙が溢れてきた。
しかしこれは、悔しい涙じゃない。
自分自身に弱さに勝てた喜びだ。
すると息を切らしながら課長は、
私を抱き締めてくれた。
「俺の負けだ……」と言いながら
えっ……?
私は、驚いて課長を見た。何故負けなの?
どう見ても勝負は、課長の勝ちなのに。
私は、不思議そうに首を傾げる。
「勝負は、確かに俺の勝ちだ。
だがお前の走っている背中を見ていたら
眩しいぐらいに輝いて見えた。思わず足を緩めるほどに
何とか意地で踏ん張って勝てたが……。
惚れた弱味って奴だな。まったくお前には、敵わないな」
課長は、そう言うと苦笑いしていた。
それを聞いて驚いてしまった。
私の走っている背中を見ていて足を緩めるとは……。
何とも皮肉なことだ。
「で?俺にどうして欲しいんだ?
願い事だ……特別に結衣の願い事を叶えてやる」
「えっ?でも……負けたし」
「いいんだよ……負けは、負けだ。
二度も言わすな」